- 2025/08/14 掲載
アングル:日本と欧州は「米国車買わない」、トランプ氏苦言も米メーカーには険しい道のり
[東京/ストックホルム 7日 ロイター] - 日本と欧州市場で米国製自動車が買われないというトランプ米大統領の見方は正しい。ただ、その原因は貿易障壁とはほとんど関係がない。東京からロンドンに至るまで多くの消費者が、米国製自動車は単に大きすぎる、燃費が悪すぎると考えていることが主な要因だ。
トヨタ「カローラ」やホンダ「シビック」、フォルクスワーゲン「ゴルフ」、ルノー「クリオ」など、よりスリムな車両が走るこうした都市では、シボレーやキャデラックといった大型車は売れにくく、あまり見かけない。
トランプ氏はしばしば、日本や欧州諸国が年間数百万台の自動車を米国向けに販売している一方、米国製自動車の受け入れを拒否していると不満を示している。最近の関税合意で両市場は米国製自動車の輸入に対する安全試験をなくす、もしくは緩和することに同意した。また、欧州連合(EU)は米国製自動車に適用する関税を引き下げるとしている。
普段から狭い道路や駐車場での運転に苦労している日本や欧州の消費者に向けて、米国製フォードの電動ピックアップトラック「Fー150」やスポーツ多目的車(SUV)「キャデラック・エスカレード」の購入を促すには、規則の変更や関税の引き下げ以上の対策が必要になるだろう。
「米国車は広い道路や幹線道路を走るために設計されていて、日本の狭い道路での走行は難しいこともある。ちょっとした技術を要する」と都内で米国製の輸入車などを扱う会社「城南ジーププチ」の代表取締役、安江友未人(やすえ・ゆみひと)さんは言う。顧客は主に、テレビや映画で米国車を見ながら育った50-60代の愛好家が多いという。
最近のある週末、安江さんは2台のシボレーを整備していた。光沢のあるブラウンの1971年型ノバと、車高の低い86年型エルカミーノ、どちらもハンドルは左側についていた。日本では右ハンドルが主流だ。
安江さんの「米国車愛」は父親譲りだ。父親は40年前に事業を立ち上げ、車両を探しにカリフォルニアへ足を運んだ。安江さんは9年前に跡を継ぎ、現在は年間20台ほどの車を販売している。
「米国車が特別なのは、そのデザインだ。日本車やドイツ車に比べて車の造形が美しい。リアやフェンダーのラインなど特にそうだ」
昨年日本で販売された新車は約370万台。うち3分の1が米国車とは正反対の、小型で燃費の良い「軽自動車」だ。日本自動車工業会(JAMA)のデータによると、外国製の自動車は新車販売台数全体の6%だった。
日本自動車輸入組合(JAIA)によると、そのうち約570台がシボレー、約450台がキャデラック、約120台がダッジだったという。
フォードは約10年前に日本から撤退。米電気自動車(EV)大手テスラは、デトロイトを拠点とする米国車メーカーよりも洗練されたデザインで人気を集めつつある。JAIAのデータではテスラの販売台数は公表されていない。
<フォードFー150は買わない>
欧州ではフォードの人気車種「プーマ」や旧型の「フィエスタ」など、現地生産されている小型の米国車は好調だ。ただ、フォードとゼネラル・モーターズ(GM)は過去20年間以上にわたり、大型ピックアップトラックやSUVへと軸足を移しつつある。こうした車両は欧州の狭い道路やコンパクトカー文化にあまり適さない。
1900年代初頭から欧州で存在感を示してきたフォードだが、欧州自動車工業会(ACEA)のデータによると、域内での販売台数は2005年の126万台から、24年には42万6000台に急減。市場シェアは8.3%から3.3%に低下している。
「フォードFー150は買わない。我々の道路の幅には合わないし、我々の顧客が求めているものでもない」と英高級車メーカー、アストン・マーチンのアンディ・パーマー元CEOはロイターに語った。
GMはシボレーの撤退後、オペルを売却して17年に欧州市場から撤退。24年に電動SUV「キャデラック・リリック」で同市場に復帰した。自動車データ会社JATOによると、同車種の販売台数はわずか1514台だという。
GMの広報担当者はキャデラックが欧州でEVのラインナップを拡大しており、発売以降は好評を博しているとの認識を示した。フォードの広報担当者は、欧州に向けては市場に合わせた現地生産車のほか、ブロンコやマスタングといった「情熱的な製品」を輸出していると述べた。
米高級車の販売を行う英ロンドンのディーラー「クライブ・サットン」は、顧客が巨大な「キャデラック・エスカレード」のような希少な車両に関心を示すことが多いと語った一方、こうした大型車の販売は容易ではないとも認めた。
「高級感とステータスから、この車を欲しがる人もいる。だが、特にロンドン中心部でこの車の駐車スペースを見つけることは容易ではないだろう」
<競争の激しい市場>
トランプ氏は韓国に対しても米国車に市場を開放するよう迫り、7月末の関税合意の一環として、韓国が自動車を含む米国製品を無関税で受け入れることが含まれると述べた。
韓国輸入自動車協会(KAIDA)のデータによると、同国における輸入車の割合は5分の1以下で、その大部分をドイツのメーカーが占める。米国車はたった16%だ。
ドイツメーカーは、日本の高級車市場でも確固たる存在感を築いている。メルセデス・ベンツは24年、5万3000台以上を販売し、輸入車ブランドでは首位に立っている。BMWが次いで3万5000台以上を売り上げた。日本の自動車メーカーは欧州各社の成功について、日本市場に時間と資源を投入してきたことが背景にあると指摘する。
米国の主要自動車メーカーは左ハンドルの車両を製造することが多いが、左側通行の道路では右ハンドルよりも運転が難しい。
それでも、一部の米自動車メーカーは変化しつつある。
GMは「シボレー・コルベット」の第8世代を21年に発売して以降、右ハンドルのモデルのみを販売している。同社の広報担当者は、購入者の80%が新規顧客であることの理由の1つとして右ハンドルの導入が挙げられるかもしれないとの見方を示した。コルベットはシボレーが日本市場で販売している唯一のモデルで、過去10年間の販売台数は年間1000台に満たない。
またGMは今年、キャデラックのEV「リリック」で右ハンドルを導入し、7月から納車を開始している。
<「わあ、外車だ」>
右ハンドル車両を販売するジープが、10年以上にわたり最も人気のある米国車ブランドであることがJAIAのデータで示されている。日本では昨年、1万台弱を売り上げた。
美容院経営者の新田幸美さん(42)はこれまで軽自動車を運転していたが、「親しみやすさ」や「アウトドア感」にひかれてジープラングラーに乗り換えたという。現在は限定ベージュモデルのジープを運転している。これで2台目で、また別の限定色モデルに乗り換えたいと語った。スペースは狭いものの何とか駐車も可能だといい、友人2人もラングラーを購入したと明かした。
「『わあ、外車だ』とよく言われる。ただ一度運転してみると普通だと思う。もっと多くの人に乗ってほしい」
ラングラーは燃費は悪いが再販価値が高い。そのため車体の色を変えることも比較的容易で、ジープ所有者はそうした買い替えをする人も多いと新田さんは言う。
ジープのブランドを展開する自動車メーカー大手ステランティスの広報担当者は、ジープ所有者向けのイベントを積極的に日本で開催していると述べた。映画「ジュラシック・ワールド」とのコラボレーション企画や、ピンク色のラングラー特別仕様車で日本全国を巡回するイベントを開催すると発表した。
米国製の大型車やトラックが、ジープの勢いに続くのは厳しいかもしれない。
東京在住の米国人、ダニエル・キャドウェルさんは中古の日本製のキャンピングカーやワゴン車を米国向けに輸出している。米国に戻るたびに米国車の大きさに圧倒されるという。
「とにかく大きすぎる」
キャドウェルさんは米国在住のビジネスパートナーと共にポートランドで日本車の輸入会社、ジャヴァン・インポートを経営している。
「ああいう車が日本で魅力的だと思われるのは、かなり難しいと思う」
最新ニュースのおすすめコンテンツ
PR
PR
PR