- 2025/08/19 掲載
マクロスコープ:インテル出資で孫氏「逆張りの賭け」、米一極投資に期待と不安
[東京 19日 ロイター] - 米半導体大手インテルへの20億ドル(約3000億円)出資を巡り、ソフトバンクグループ(SBG)の孫正義会長の決断は「逆張りの賭け」との声が専門家から出ている。
同社は今年に入り、米国の人工知能(AI)インフラの「スターゲート」計画のほか、米オープンAIへの大型出資を発表しているが、インテルに関しては経営不振が続いており、これまでの投資とは位置付けが少し異なるからだ。
米国に集中投資し、トランプ政権と一蓮托生(いちれんたくしょう)することに市場関係者からは成長期待と不安の声が入り混じる。
東京株式市場では同社株は昨日まで連日、上場来高値を更新し直近2カ月で約2倍に高騰、市場全体を引っ張ってきた。アナリストの間でも、先月末から目標株価の上方修正が続出。SBI証券は目標株価を1万4400円から1万5000円に見直したほか、モルガン・スタンレーMUFG証券は従来の8000円から1万5000円へと2倍近くに引き上げた。
株価上昇の要因は、AI投資への期待感だ。同社は保有する通信株を手放す一方、AI向けデータセンターを手掛ける米オラクル株を取得。さらに3月に米半導体設計のアンペア・コンピューティングを65億ドルで買収すると発表したほか、4月には生成AIの大本命である米オープンAIへの最大300億ドルの追加出資を公表した。
もっとも、インテルに関しては業績低迷が続き、大規模な人員削減にも着手するなど、前述の企業群とは立ち位置は違う。SBI証券の鶴尾充伸シニアアナリストは「AI向けの半導体で出遅れ、かつての輝きは失われており、(SBGが収益を確保するには)足の長い投資にならざるを得ないはずだ」と語る。
トランプ政権が経営支援を目的に、インテルへの出資を検討していると報じられていたこともあり、ある国内証券のアナリストは「まるで両者が連携して動いているように映る。米国で円滑にビジネスを進めるためには、政権との“お付き合い”は仕方ないのだろう」と推測する。
独立系調査会社ニュー・ストリート・リサーチのアナリスト、ロルフ・バルク氏は、今回の出資について「今後数年間で業績回復が実現するという孫氏の信頼の表れだ」と話す。「孫氏による逆張りの賭けだ」としながら、(金額を考慮すると)下振れリスクはかなり限定的だと指摘した。
19日の同社株は一時5%超下げ、終値は前日比670円安の1万6035円だった。「最近の株価の上昇ペースがあまりに早かっただけに利益確定売りが出たのだろう」ーーSBI証の鶴尾氏はこう語る。市場は孫氏の決断の妥当性を見極めている最中だ。
<まさにオールイン状態、財務負担重く>
SBGが今後予定する米国への投資規模は極めて大きく、まさに「オールイン(全賭け)」状態と言ってよい。スターゲートには5000億ドルを投資する計画で、2017年に立ち上げたビジョン・ファンドの運用額(約1000億ドル)を大幅に上回る。
外部資金も活用するとはいえ、同社にのしかかる財務負担は重い。ちょうど先週、米半導体大手エヌビディアが出資するAI関連企業の米コアウィーブの株価が急落し、いわゆる「コアウィーブ・ショック」が市場の話題を集めたばかりだ。AI市場の拡大の道のりは決して平たんではない。
トレンドの逆回転が起きた際の業績悪化への懸念は、直近のSBG株の高騰により、むしろ市場では強まっている面もある。すでに同社は投資会社の性格を色濃く帯びるため、マクロ経済の影響を受けやすい。高関税政策によって米国の株式市場が失速すれば、十分なリターンを上げるのは難しくなるだろう。
三井住友DSアセットマネジメントの白木久史チーフグローバルストラテジストはレポート内で、グループ全体で保有する株式のうち約7%を中国株が占める(24年9月時点)と指摘。中国のエコシステムとのかかわりを遮断できなければ、「最先端の半導体の対中輸出規制を行い、AI開発で中国と覇権を競う米国の国家戦略と深刻な齟齬が生じかねない」との見方を示す。
足元では米中の貿易協議を巡る緊張緩和が伝えられているが、両大国の距離感もSBGの投資戦略の成否を左右しそうだ。
(小川悠介 取材協力:Sam Nussey 編集:橋本浩)
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