- 2025/09/05 掲載
焦点:日本車各社、米関税の大統領令に安堵も試練続く ブランド力が左右
Maki Shiraki Daniel Leussink
[東京 5日 ロイター] - トランプ米大統領が自動車関税を引き下げる大統領令に署名した5日(米国時間4日)、日本の自動車業界からはひとまず安堵の声が聞かれた。しかし、27.5%から15%に下がるタイミングが明確になったとはいえ、4月以前の2.5%に比べれば税率は6倍。トヨタ自動車やホンダといった関税の影響を吸収する余力のある大手に比べ、マツダや三菱自動車など中堅には厳しい状況が続くとの見方が専門家からは出ている。
<一歩前進も税率は6倍>
トヨタは大統領令の署名を受け、「当社が米国で販売する自動車の8割近くは北米で生産されているが、この枠組みは大いに必要とされていた明確性を提供する」とコメントした。別の日本車メーカー幹部は「やっと15%の適用時期のめどが立った。これで具体的に対策を決めやすくなるので一歩前進とは言えるが、関税負担は厳しい」と話した。
SBI証券の遠藤功治チーフエグゼクティブアナリストは「ひょっとしたら関税が27.5%のまま年末まで続くのではないかと思っていた人もいた中、15%の適用時期が見えたので、ひとまず安心だ」と言う。一方、15%の税率は高いと指摘した上で、「ニューノーマルとして今後受け入れないといけないのか、それとも米国最高裁が違法と認識してトランプ関税が撤廃されるのか、まだ先行きは不透明だ」と語る。
もともとの2.5%から27.5%へ関税が引き上げられた4月以降、日本の自動車メーカーが値上げする動きは当初、限定的だった。各社が自社で関税コストを背負った形だが、米国内に積み上げていた在庫が底をついたこともあり、6月以降は値上げが相次いだ。遠藤氏は、関税コストを吸収する値上げが「これからさらに本格化する」と予想する。その上で、ブランド力が今後の売れ行きを左右するとみる。
商品の値段が上昇する中で、ブランド力が強く下取り価格が高かったり、人気のある新車やハイブリッド車のラインアップが充実したメーカーは優位との見立てだ。
<値上げの影響が大きいメーカー>
三菱自はすでに値上げを実施。米国に生産拠点がないことから、日産自動車の米国工場を活用して共同生産する案も検討している。三菱自は日本勢の中で米国でのシェアが低く、関税による値上げ実施は影響を特に受けやすい、と米自動車調査会社オートフォーキャスト・ソリューションズのサム・フィオラニ副社長は指摘する。「車両コストが上昇すれば、市場での優位性を失いかねない」と話す。
三菱自は8月下旬、26年3月期通期の連結業績予想を下方修正し、営業利益を従来の1000億円から前年比50%減の700億円に引き下げた。関税措置の影響を見直したことや競争激化による販売減少や販売費の増加、インフレによるコスト悪化を織り込んだ。
加藤隆雄社長は下方修正の理由について、関税コストを吸収するために予定していた値上げや、値引き原資となる販売奨励金の削減を「想定通りに実行するのが困難」になったと説明。関税による販売減少を挽回するために米国以外の市場でも競争が激化しており、「販売費の増加などが今後さらに収益を圧迫する」と語った。
<長すぎるトランプ大統領の任期>
多くの自動車メーカーが生産拠点を置くメキシコとカナダが、米国との間で関税交渉がまだ決着していないことも懸念材料だ。
メキシコ国家統計局のデータによると、マツダの場合、メキシコからの米国への輸出台数は4月から7月までで前年同期比で54%落ち込んだ。メキシコから米国へ輸出する自動車メーカー12社の中で最大の落ち込み幅だった。
減少理由の1つには、収益性を維持するため、メキシコからの米国向け出荷を意図的に減らし、トヨタとの米国合弁工場(アラバマ州)でスポーツ多目的車(SUV)「CX━50」の生産を増やしたことがある。4月から7月までのマツダの米国販売は14万5039台で、前年同期(14万2246台)に比べ1.9%増えた。稼働率がその分低下するメキシコの生産拠点が、この先重荷となりうる。
英調査会社ペラム・スミザーズ・アソシエイツの自動車担当アナリスト、ジュリー・ブート氏は、日本からの関税15%も収益を圧迫し続けるとし、「トランプ大統領の任期がマツダには長すぎる」と語る。
その上でブート氏は、マツダがトヨタとの連携を強化すると予想。米国での車両生産や共同調達での協業を深め、トヨタがこの先2年間でマツダへの出資比率を現在の約5%から引き上げる可能性もあるとみている。
(白木真紀、Daniel Leussink 編集:久保信博)
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