- 2025/11/10 掲載
日銀10月会合、利上げへ「条件整いつつある」 春闘の初動重視
Takahiko Wada
[東京 10日 ロイター] - 日銀が10月29―30日に開いた金融政策決定会合では、利上げ再開に向けて「条件が整いつつある」との意見が出る一方で、政策変更に当たっては来年の春季労使交渉(春闘)の初期段階の情勢が重要になるとの意見が複数あった。日銀が10日、決定会合の主な意見を公表した。
利上げへの条件が整いつつあると発言した委員は、基調的な物価上昇率について「その定着度合いも確認する必要がある」と述べた。
決定会合後の会見で植田和男総裁は、政策調整に当たり、来年の春闘の「初動のモメンタム」が重要になると述べていた。主な意見では、総裁と同じ趣旨で初動のモメンタムを重視する意見のほかに、世界経済や金融市場で「悪いニュース」がないことを前提に、春闘に向けた「初期段階の労使双方の動き」などから、企業の積極的な賃金設定行動が維持される見通しを確認できれば、政策変更につながるとの意見もあった。関税の影響や米国をはじめとする世界経済の動向についての不確実性を踏まえた上で、日本企業が「積極的な賃金設定行動を維持するかが重要」との意見も出された。
来年の賃上げ期待はあるものの、物価高や住宅価格の上昇などで「生活者への負担が増している」として、先行きの不透明感は残るが「経済・物価の見通しと達成確度次第で金利を調整すべき環境になる」との意見も出された。
足元は急ぐ状況ではないかもしれないが「適切な情報発信を続けながら、タイミングを逃さずに利上げを行うべきだ」との意見も見られた。
<米経済巡る悲観論が後退>
米国経済を巡る不確実性や日本の新政権の経済政策を見極めたいとする意見もあった。ある委員は、米国で所得税還付などで景気が過熱し、円安などを通じて日本の物価が大きく上押しされるリスクを考えれば「早めの利上げが望ましいとも言える」ものの、「米国の労働市場の『奇妙なバランス』が崩れ始め、資本市場も調整局面を迎え、わが国の物価や景気に想定以上に下押し圧力がかかるリスクもまだ否定しきれない」として「今しばらく見極めて判断する方が適当だ」と述べた。
利上げを行うべきタイミングが近づいている一方、「米国の関税政策をめぐる不確実性が依然として高いことや、わが国新政権の経済政策の方向性がまだ十分に明らかでないことなどを勘案し、状況をもう少しだけ見極めることが適当」との意見も見られた。
もっとも、米経済については、従来に比べ悲観論が後退している旨の発言もあった。ある委員は、米国の関税政策の影響が今後本格化するとしても「想定される影響の規模は以前よりは小さくなってきており、わが国の成長ペースの伸び悩みもそれほど大きくないと見込まれる」と述べた。米国では減税や規制緩和等の経済底上げ政策に移行しているとして「関税によるこれからのマイナスの動きは生じにくい」との意見もあった。
日本の大手・中堅企業は関税を織り込んだ経済活動・戦略に移行しており「先行きを見通す上で7月時点よりも霧が薄くなった」とする委員もあった。
決定会合では、9月会合に続いて高田創審議委員、田村直樹審議委員が0.75%への利上げを提案した。主な意見では「将来の急激な利上げショックを避けるため、金融緩和度合いを調整して、中立金利にもう少し近付けるべきだ」との意見が出ていた。
同会合で議論した展望リポートでは、物価目標の達成時期について、見通し期間の「後半」との見方を維持した。ただ、前倒し達成の意見が複数見られた。ある委員は「賃上げが3年連続して物価安定の目標と整合的な水準になることを見通せる来年春には、物価安定の目標達成と判断できる公算が大きい」と述べた。最近の市場の動きや企業の積極的な賃金・価格設定行動を受け、「物価安定の目標が概ね達成されたとの判断の確度はより高まった」との意見もあった。
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