- 2025/11/14 掲載
マクロスコープ:LINEヤフーの憂鬱、AI検索普及で広告減 経済安保リスクも
[東京 14日 ロイター] - LINEヤフーが曲がり角を迎えている。画面上部に検索結果を要約する「AI検索」の普及によって、ネット広告事業への悪影響が見込まれるためだ。関連広告を表示する機会が減ることなどから、すでに一部企業が出稿を抑制しており、2025年7-9月期の「検索広告」の売上は前年同期に比べて約13%減と大幅に落ち込んだ。
11月には、新会社の発足後初となる早期退職の募集を開始。経済安全保障を重視する高市早苗政権の誕生を機に、韓国ネイバーとの資本関係見直しを巡る議論が再燃する可能性も出ている。
「マーケットは生成AIによる業績悪化を懸念している」―。今月4日に開かれたLINEヤフーの決算説明会で、アナリストから検索広告の先行きを心配する声が相次いだ。検索広告とは、ユーザーが特定のキーワードを検索した際に、その内容に関連するテキスト形式の広告を表示する仕組みで、長年にわたり同社の収益を支えてきた。24年度通期は前期比0.8%増と増収を確保したものの、今期に入って状況が一変。第1四半期(4-6月)の売上高は前年同期比8%減となり、第2四半期は減収幅がさらに拡大した。
その要因の一つとして挙げられるのが、AI検索の急速な普及だ。「Yahoo!JAPAN(ヤフージャパン)」では検索結果の上部にAIが要点をまとめて表示するほか、チャット形式でAIとやり取りできる機能も備わる。ただ、前者では利用者がAIの回答に満足して、何度も検索したり次から次へとページを移動しないため、広告の表示・クリック回数が減ってしまう。後者は従来の検索窓を使わないため、そもそも連動型の広告が表示されない設計だ。
また、「チャットGPT」をはじめとした対話型AIに知りたい事柄を尋ねる人も増えており、「一部の大手クライアントにおいて検索広告の出稿を控える動きがあった」と会社側は説明する。要するに、広告主がキーワード検索の減少を見越して予算を削減したり、市場シェアの高いグーグル検索への出稿に一本化するといった動きが顕在化しているという。
UBS証券の?翌佳アナリストは4日付のレポートで「検索広告の構造的な減少は今後数四半期にわたり続く可能性が高い」と指摘。ヤフージャパンのトップページなどに画像や動画を表示する「ディスプレイ広告」は堅調を維持しているものの、LINEヤフーの目標株価を従来の530円から460円に引き下げた。マッコーリーキャピタル証券もレポートで「検索広告は期待外れで、弱含みの傾向が続く恐れがある」との見解を示した。
決算発表翌日の東京株式市場では、同社株価は前日比21円(4.8%)安の422円まで一時下落。7月に年初来高値(571円)をつけてから、上げ足を速める日経平均とは対照的に軟調な値動きが続いている。
<週3回の出社要請、労組は反発>
ネットビジネスを取り巻く環境変化をふまえ、同社は今月から早期退職制度を導入し、40歳以上かつ勤続5年以上の正社員らを対象に、退職時に一定の支援金を支給することを決めた。広報担当者は「前身の旧ヤフーが運用していた常設の制度で、募集人数や期限を設けていない」と強調するが、事実上の人員削減策との見方もくすぶる。10月には、これまで6つあった事業組織を4つに集約している。
また、新型コロナウイルス禍の収束に伴ってオフィス回帰を進めており、部署によって週1回または月1回の出社要請を、来年4月からは全社員に対し、原則週3日程度に増やす方針だ。もっとも、LINEヤフー労働組合の幹部は「出社ルールの再検討を求めて、会社側との交渉を今後も続けていく」と語るなど、労使の話し合いは未だ平行線のままだという。
もともと今春までは「フルリモート」が認められていただけに、郊外からの通勤者をはじめ不満を感じる社員も多く、当初20人程度だった組合員は足元では約300人に増えた。両者の軋轢(あつれき)が深まれば、組織風土の改革は絵に描いた餅になりかねない。
さらに気がかりなのは、高市政権との関係だ。度重なる個人情報の管理体制の不備を受け、総務省は親会社のAホールディングスに50%出資する韓国ネイバーが、LINEヤフーに強い影響力を持つことを問題視してきた。LINEヤフーとネイバーとのシステム分離は来年3月に完了する予定だが、経済安保に重きを置く新政権の発足により、資本関係の見直しを巡る議論が活発化する可能性もある。
国内初の商用検索サイトとしてヤフージャパンが誕生したのは1996年4月。30周年の節目を間近に控え、ネット業界の盟主は大きな岐路に立たされている。
(小川悠介 編集:橋本浩)
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