• 2020/12/25 掲載

アングル:日銀・特別付利制度に「予防線」、政策への影響避ける

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杉山健太郎

[東京 25日 ロイター] - 日銀が来年3月初めから実施を予定する「地域金融強化のための特別当座預金制度」は、金融政策や市場の金利形成に影響を与えないという点で、いくつもの「予防線」が張られた設計となっている。同制度の導入を巡っては金融政策への影響や政策決定過程などで外部から異論も唱えられたが、日銀はそうしたことも想定して、相当作り込んだのではないかとの見方が出ている。

<綿密な設計>

日銀は、この制度は金融システムの安定確保を目的としたプルーデンス政策であり、金融政策とは一線を画すものだと説明している。ただ、一部の専門家は「付利の『利』は金利の『利』。これは絶対に金融政策」(エコノミスト)と指摘、国会議員からも「手続きとして通常会合ではなく、金融政策決定会合で決めるべきではなかったか」(音喜多駿参議院議員)といった意見が出た。

日銀元理事で、みずほ総合研究所の門間一夫エグゼクティブエコノミストからも「プルーデンス政策といいながら、結果的に金融政策へ影響を与えることになる」ため、この点について日銀には「説明責任がある」との指摘もあった。

ただ、日銀の事情に詳しい関係者は「日銀に当座預金を持っている金融機関の行動が変化することによって、金融政策として導入しているイールドカーブ・コントロールに迷惑をかけてはいけないという問題意識が(日銀内には)当初からあった」という。外部の異論が出てくることを想定したうえで、綿密に制度設計したことがうかがえる。

同制度は一定の要件を満たした地域金融機関を対象とし、最大3年間、日銀に持つ当座預金の所要準備額を除く部分に年プラス0.1%の金利を付けるというもの。現行の補完当座預金制度で適用されている利率が、実質的にプラス0.1%ずつ引き上げられることになる。

適用された金融機関の日銀当座預金の中で、マイナス0.1%の金利が設定されている部分の金利はゼロ%になる。そのため、金融機関の過度な裁定取引に歯止めをかける狙いで、特別付利の対象となる金額に上限を設ける工夫を施した。

適用先金融機関は、マイナス金利で市場から資金を調達し、ゼロ金利部分に資金を積み上げていけば利ザヤが稼げる。こうした裁定取引に妙味を見出した金融機関で資金調達の動きが急拡大すれば、短期金利市場でのオーバーナイト物コールレートや、短期国債の金利上昇圧力となる可能性があるからだ。

前出の関係者は「今の金融調節方針と整合的な金利形成が短期金融市場で行われることが大事。この制度の導入によってとんでもない裁定取引が山のように起こり、どうやっても金融調節できないという事態になるのは避けようということ」と話す。

<特例的な扱いも>

さらに特例的な取り扱いという「予防線」も張った。制度の適切な運営や金融調節に影響を及ぼす行為があるなら、日銀が適用から外すこともあり得る、ということを示している。

もっとも、地銀、信用金庫、各系統の会員金融機関のすべてが適用された場合でも、特別付利の総額は年間700億円程度の試算。中でも制度が適用される金融機関となるとさらに総額は小さくなり、コール取引・レポ取引合計で170兆円程度の市場規模がある短期金融市場に対しては、ほとんど影響を及ぼさない可能性が高いとの指摘がある。

仮に何らかの影響があった場合はどうか。雨宮正佳副総裁が以前の会見で述べた「金融調節面でその影響を十分オフセットできる」というコメントがヒントになりそうだ。

日銀は具体的な手法を明らかにしていないものの、現行の金融調節のツールを用いるとすれば、日々の国債買い入れオペの増額によって大量に資金供給し、金利低下圧力をかけることが考えられる。

現行の補完当座預金制度では「マクロ加算残高」を増減させてマイナス金利適用残高の規模を5兆円程度になるよう調整しているが、理論上、このマクロ加算残高の算出に用いる基準比率を引き下げれば、マイナス金利適用する残高が増えてマイナス金利政策をしっかり実現できる。

市場からは「市場の金利形成に全く影響を与えない自信があるので、金融政策を扱う金融政策決定会合ではなく、通常会合で決めた経緯があるのだろう」(前出のエコノミスト)との見方や、「銀行側の行き過ぎ防止や金融政策への影響軽減など、導入する以上は抜け穴があってはいけないと相当作り込んでいる感じがする」(日本総研の副主任研究員、大嶋秀雄氏)との声が出ている。

(杉山健太郎 編集:石田仁志)

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