- 2021/04/13 掲載
焦点:中国IT企業、本土でIPO撤回ラッシュ 審査強化で
ロイターが中国の取引所への申請書類を調べたところ、アントのIPO中止以来、100社以上が上海の「科創板(スター・マーケット)」と深センの「創業板(チャイネクスト)」への上場申請を自主的に取り下げたことが分かった。
バンカーや企業幹部によると、前代未聞の相次ぐ撤回の背景には、上場目論見書の審査が規制当局によって急激に厳格化され、IPOの延期や却下、さらには処罰にまでつながっている状況がある。企業があわてて申請を取り下げる様子は、中国のIPOの質、そして引受会社によるデューデリジェンスの頑健性に疑問を生じさせる。
<厳格化した当局>
この傾向が続けば、香港やニューヨークの取引所のような世界的取引所に対抗したいという中国の野望は危うくなる。折しも中国は、海外上場企業を呼び込むための新取引所の設置を検討中だ。
中国は約2年前に科創板を立ち上げ、米国風の登録と情報開示に基づくIPO制度を導入した。国内のハイテク新興企業に海外上場を思いとどまらせるとともに、国内上場を迅速化するのが狙いだった。こうした変更は昨年、創業板にも適用された。
しかし、中国の規制当局の考え方を直接知る銀行関係者によると、当局がアントの事業の一部に懸念を示して同社のIPOが延期されて以来、当局はリスク管理に関心を移した。
「規制当局は引受幹事社に対し、より厳しいデューデリジェンスを要求している」とこの銀行関係者は話す。スポンサーや主幹事会社が処罰を恐れて上場申請を取り下げる例もあるという。「一分のすきもない案件は存在しない」ためというのだ。
科創板は2020年、IPO総額が200億ドルと世界4位を記録した。だが、リフィニティブのデータによると、今年第1・四半期には順位が7位に落ちた。
アトム・ベンチャー・キャピタルの共同経営者、Yiming Feng氏は「中国はITバブルになっている。是正すべき時を迎えたということだ」と語る。
中国証券監督管理委員会(CSRC、証監会)、科創板、創業板はロイターのコメント要請に応じなかった。
<私募を優先>
上海に拠点を置くクラウドコンピューティングの新興企業・ダオクラウドは今年、科創板でのIPOを計画していたが、承認が遅れる可能性が出たため、今は香港上場を検討している。
同社創業者のロビー・チェン氏は「(IPO申請企業は)現在、規制面で大きな不確実性に直面している」とし、「だから当社にはプランBが必要だ」と述べた。
近々の海外上場計画を持たないその他の企業にとっては、私募方式での新たな資金調達を求めることの方が優先になっている。
深圳のベンチャーキャピタル、チャイナ・ヨーロッパ・キャピタルのエイブラハム・ジャン会長は、人工知能(AI)のユニコーン(事業価値10億ドル以上の未上場の新興企業)何社かが「事業計画を持って資金調達を求めに来ている」と話す。取引所データからは、赤字のハイテク系ユニコーンが上場計画を棚上げにした事例が幾つも分かる。
プロスペクト・アベニュー・キャピタル(北京)の創業パートナー、ミン・リャオ氏によると、現在多くの中国新興企業にとってIPOへの道は険しい。そうした一部が「持続的に成長できる潜在力を示す」のに苦労している企業だという。
<病んだ企業呼ばわり>
証監会の易会満主席は先月、引受会社にIPO候補企業の審査を厳格化するよう求め、「病んだ」企業を上場させようとする者は罰すると表明した。
銀行関係者によると、取引所も現在、現地調査に乗り出し、IPO書類をしらみつぶしに精査し、スポンサーを質問攻めにしている。こうしたことは以前はまず見られなかった光景だ。
さらに、新興企業の上級幹部は自分たちの個人銀行口座を開示し、多額の取引があれば説明しなければならない。
この結果、ある銀行関係者によると、上場までに要する期間は従来の平均6カ月から同12カ月に延び、現在100社以上が科創板への上場を待っている状態だ。
新しいIPO制度は、迅速な上場を求める多くの企業を引きつけていた。それが今では「規制当局が細部の点検や立ち入り検査に執ように関心を払い、企業を脅して追い払っている」と、待機状態になったままのIPO案件数件を抱える投資銀行関係者は説明。「市場に企業評価の権限を与えるというIPO改革の目的に反している」と語った。
(Samuel Shen記者、Scott Murdoch記者)
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