• 2021/06/01 掲載

再送-〔アングル〕海外巨額M&Aにも円安進まず、変わる日本企業の外貨調達法

ロイター

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(この記事は1日の午後5時53分に配信しました)

浜田寛子

[東京 1日 ロイター] - 日本企業による海外企業の巨額買収に対し、円相場の反応の鈍さが目立っている。企業が買収資金となる外貨の調達方法を外債発行や外貨預金などに多様化しているためだ。2021年1─4月期の日本企業の買収資金は前年同期の3倍に膨張したが、市場へのインパクトは以前ほどはない。「海外大型Ⅿ&Aは円売り・外貨買い」と言われた為替相場の常識が大きく変化しつつある。

<かつてと異なる為替反応> 日立製作所による米IT企業グローバルロジックの1兆円超の買収が発表された今年3月31日。ドル/円は午前中やや円安に振れていたが、事前報道が出た後はほとんど動かなかった。パナソニックによる米ブルーヨンダーの完全子会社化(約7800億円)の観測報道が流れた翌日の3月9日も、ドル/円はほぼ横ばいだった。

こうした市場の反応は、武田薬品工業によるアイルランドの製薬大手シャイアー買収の思惑が広がった2018年4月とは大きく異なる。この買収が6兆円超という巨額案件になるとのサプライズも加わり、報道が流れた同月5日から17日にかけて為替相場は大きく変動、約3円の円安/英ポンド高に進んだ。

かつての為替市場では、日本企業の海外大型Ⅿ&Aが伝わると「円売り・外貨買い」の思惑が広がり、マーケットが反応するケースがよくみられた。「ファンダメンタルズとは違う方向に市場が動くこともあった」(楽天証券・FXディーリング部の荒地潤氏)という。

外為市場の1日あたりの平均取引高は東京市場だけで約40兆円であり、巨額のM&Aといえども、全体でみれば規模は大きくはない。しかし、短期的には一方向の資金フローが生じるM&Aは、投機的な外貨買い・円売りを巻き込み、相場を動かす材料にしばしば使われた。

<円安にならない資金調達を模索>

Ⅿ&A助言のレコフの統計によると、2021年1―4月の日本企業による海外Ⅿ&Aは210件で、金額は3兆7118億円。件数は前年同期を1割ほど下回ったが、巨額買収が増えたことで、金額は約3倍になっている。以前であれば、為替相場にインパクトを与えかねない規模だ。

しかし、M&A資金調達の多様化で、日本企業は円を外貨に換えなくても買収資金を確保する手段を活用できるようになった。みずほ銀行のチーフマーケット・エコノミスト、唐鎌大輔氏は、海外売上高の増加で日本企業が保有するキャッシュの外貨比率が高まっていると指摘。日本企業が海外企業を買収する際も「為替差損が発生しない手段をとりやすくなったのではないか」と分析する。

経済産業省の海外事業活動基本調査によると、日本企業の18年度の海外売上高は290兆9136億円となり、1970年の統計開始以来の過去最高に達した。海外企業の買収に投資できる外貨も潤沢だ。

パナソニックによるブルーヨンダ―買収資金は、総額で有利子負債の返済分と合わせて約71億ドル(1米ドル=110円で換算)。約35億ドルの手元資金を充て、残額をブリッジローンで調達し、その後劣後債へ借り換えるとしている。「手元資金は当社グループ内のドル資金を活用する予定」(広報担当者)という。

日本企業による外貨建て社債の発行も急増している。調査会社ディールロジックによると、日本企業による米ドル建ての社債発行は今年、5月末時点で前年同期のほぼ3倍となる350億ドルに達し、過去最高ペースで拡大している。

「企業側が円安にならない方法を考えるのは当然だ」と、外為どっとコム総研・上席研究員、神田卓也氏は指摘する。観測報道などで買収前に円安が進んでしまうと、日本企業はより高い金額を相手側に支払わなくてならなくなるためだ。

<対外直接投資と逆相関のドル/円>

足元では、全面的な円安基調が続いており、「Ⅿ&Aに絡んだ円売りなどもしみ出ているのではないか」(外資系証券)との見方も聞かれる。

しかし、「基本的に為替市場の方向性は、各中央銀行の金融政策や地政学リスクなどで決められる」(国際通貨研究所・上席研究員の橋本将司氏)というのが為替のセオリーだ。

実際、日本の対外直接投資(M&Aおよび海外に法人を設立する「グリーンフィールド投資」などの合計額)は新型コロナウイルスの感染拡大で減少した昨年を除き、16年以降は拡大傾向にあったが、この間、ドル/円は円高方向に振れている。

対外直接投資が短期的にはともかく長期的には為替の方向性を決定しないという近年の「経験則」も、巨額M&Aが円安材料として盛り上がらない要因となっている。

(浜田寛子 取材協力:山崎牧子 編集:伊賀大記、北松克朗)

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