- 2021/07/08 掲載
アングル:主要国債利回り急低下、経済・物価の加速観測が後退
米10年国債は6日に価格が急伸して利回りは8ベーシスポイント(bp)と今年2番目の低下幅を記録した上に、7日には4カ月余りぶりに1.3%を割り込んだ。英国債利回りも約4カ月ぶりの低水準となったほか、5月段階でプラス圏浮上をうかがっていたドイツ国債利回りはマイナス0.3%に沈んでしまった。
こうした動きについては(1)利回り上昇に賭けた投資家がポジションの巻き戻しを強いられた(2)経済指標が予想より低調だった(3)新型コロナウイルスの変異株への懸念--といったさまざまな理由が挙げられている。
そして余計な「ノイズ」を排除していくと、国債市場が発する本当のメッセージがはっきりしてくる。つまり経済成長はなお底堅いもののピークを過ぎ、物価の上振れは一時的と証明される公算が大きいということだ。
チューリッヒ保険グループのチーフ市場ストラテジスト、ガイ・ミラー氏は「市場の考え方は、経済成長と物価が強くなりそうだというものから、成長は峠を越えてインフレも短期的現象だという内容に変わってしまった」と話す。
そうした市場の方向転換は、米連邦準備理事会(FRB)がつい最近タカ派姿勢にシフトし、想定利上げ時期を前倒ししたことと矛盾するかもしれない。
ただ、それでもFRBが見込む利上げ開始時期は2023年以降で、他の主要中央銀行とともに物価圧力の短期的な高まりは重視しないと強調している。
ピクテ・ウェルス・マネジメントのストラテジスト、フレデリック・デュクロゼ氏は「経済成長がそこまでしっかりしておらず、物価高騰も迫っていないという事実に直面している以上、見方を変えざるを得ない」と説明した。
経済成長が頭打ちになったことを裏付ける幾つかのデータも出てきた。6日には米供給管理協会(ISM)の6月非製造業景気指数が低下し、注目されるドイツの投資家心理に関する7月の欧州経済研究センター(ZEW)景気期待指数も予想以上の悪化となった。
<リフレトレードが沈静>
これまで世界最大の資産運用会社ブラックロックをはじめとする多くの投資家が米国債に対して弱気で、ブラックロックは7日も立場に変化はないと強調した。しかし3月以降、利回りは50bpも下がってきた。
米国債利回り低下の背景を巡り、一部の市場関係者は、中銀が断固としたハト派姿勢を取っている欧州と日本からの需要を指摘。米財務省による政府預金取り崩しとFRBが毎月1200億ドルの買い入れを行っていることに伴う品薄感に言及する声もある。
別の要因として、景気回復の勢いが活発に見える中でも債券市場は経済の先行きに疑念を持ち続けていたという面もあるのではないか。INGバンクのアナリストチームはノートで、物価調整後の実質借り入れコストが利回り低下を主導したのがその証拠だとの見方を示した。
米10年国債の実質利回りは足元でマイナス1%と、2月以来の低さにある。ドイツ10年国債の実質利回りも3カ月ぶりの低水準で推移している。
T・ロウ・プライスのポートフォリオマネジャー、マイク・セウェル氏は、「リフレトレード」の巻き戻しが拡大している点から、今年の米10年国債利回りは3月に付けた1.77%が最高水準になり続けると予想する。
「リフレトレードが再開される余地は残っているが、目下のところ冬眠状態にあるのは間違いない」という。
さらに今後を不安にさせる要素が2つある。1つは今週発表されたデータで中国のサービス部門の拡大が14カ月ぶりの低調なペースになったことで、これは先進国が同様の状況に見舞われる前触れだとの見方が出ている。
もう1つは感染力の強いインド由来の変異株(デルタ株)が中国を含む一部の国で再拡大している事態だ。
メディオラナム・インターナショナル・ファンズの債券責任者チャールズ・ディーベル氏は「市場に植え付けられた記憶に基づくと、感染者が増加すれば各国政府はまたロックダウンを実施する。それは成長の減速と、われわれが抜け出せないループに陥ることを意味するだろう」と述べた。
(Dhara Ranasinghe記者)
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