- 2021/08/16 掲載
アングル:選別のリフレトレード、株式市場内でも「質への逃避」
[東京 16日 ロイター] - リフレトレードが戻ってきた。経済指標の改善で投資家のセンチメントが回復し、米国などは株価が最高値を更新している。しかし、新型コロナウイルスのデルタ株という新たな不確実性要因が出現。株式市場でも「質への逃避」的な選別が起きており、日本株は相対的なアンダーパフォーマンス傾向が強まっている。
<経済指標改善で市場心理好転>
「Capitulation(降伏)」と呼ばれたリフレトレードの巻き戻しは一巡。米ダウとS&P500が連日の最高値更新。米10年債利回り1.12%台を底に一時1.37%台まで水準を戻している。インドのSENSEX指数も過去最高値を更新中だ。
市場心理好転のきっかけは堅調な経済指標だ。米国の7月雇用統計では、レストランやバーだけでなく専門職・企業サービス、運輸・倉庫、ヘルスケアなど幅広く雇用が増加。労働参加率が上昇する中で失業率も低下し「ほぼ申し分ない内容となった」(三井住友銀行のチーフ・マーケット・エコノミスト、森谷亨氏)。
さらに米上院は10日、超党派による1兆ドル規模のインフラ投資法案を可決。当初の2兆ドルからは規模が縮小したほか、下院での成立もまだ予断を許さないが、市場では景気後押しの期待が高まっている。
7月の米消費者物価指数は伸びが鈍化したが、卸売物価指数は前年比7.8%上昇と2010年11月以降で最大の伸びとなった。こうした中、米連邦準備理事会(FRB)からも早期のテーパリング(量的緩和の縮小)に前向きな発言が増えてきている。
「金融市場のカネ余り構造は変わっていない。リフレトレードのポジション巻き戻しが一巡し経済指標も良くなってきたため、マネーが再びリスク資産市場に流れ込んでいる」と、アライアンス・バーンスタインの債券運用調査部長、駱正彦氏は指摘する。
<「Less negative」に逃避するマネー>
しかし、今年1─3月にみられたような、景気回復・インフレ高進との予想を背景にリスク資産であるなら何でも買われるような状況ではない。その大きな要因の1つが、新型コロナの変異種デルタ株の流行だ。
デルタ株は感染力が強く、ワクチン接種が進んだ国でも感染が再拡大している。「集団免疫を獲得するのにより時間がかかる可能性が出てきており、不確実性リスクが一段と高まっている」と、バンクオブアメリカの主席エコノミスト、デバリエいづみ氏は警戒する。
デルタ株が流行し始めた6月末と8月11日時点の1週間平均でみたコロナの新規感染者の増加率と各国主要株価指数の騰落率をみると、各国とも感染が急拡大している中でも、感染増加率が低い国ほど株価が高い傾向がみてとれる。
「Less negative(悪化度合いが比較的まし)」な資産が買われているのが今回のリフレトレードの特徴だ。米国は感染数が急増しながらも株価が高いが、マネーが「質への逃避」先として、経済力の高い米国を選択している姿がうかがえる。
銅先物など一部のコモディティー価格が低迷しているのも、中国経済への警戒感だとみられている。コロナによる経済への影響は感染者数の多寡ではなく、その伸びや経済抑制の度合いによることがわかってきており、中国の感染者数はまだ少ないが、地域封鎖など厳しい抑制策がとられていることが警戒感につながっている。
<「金メダル」のみ買われる日本株>
日本株も今のところ今回のリフレトレードの積極的な対象とはなっていない。日経平均株価は7月末から約1000円上昇し2万8000円台を一時回復したが、6月末との対比では4%安、年初来高値からは10%安とまだ深い「水面下」だ。
金利上昇局面になれば、バリュー株の象徴的な存在である日本株が見直されるとの見方は少なくない。株価収益率(PER)でも割安感がある。しかし、新型コロナの新規感染者数が過去最多となる中、政局の不透明感も加わり「少なくとも今買う必要はない」(米系投信)との声も多い。
4─6月期の業績は東証1部企業の営業利益で前年同期比3.46倍と好調だが、株式市場では好業績株に対しても選別色が強くなっている。市場の期待を大きく上回るような「金メダル」級に対する株価反応は良いが、ポジティブ・サプライズがないと、たとえ業績が好調でも反応が鈍い。
日本電産やトヨタ自動車などは、大幅増益でかつ進ちょく率も高かったにもかかわらず通期業績予想を上方修正しなかったことが嫌気され、翌日の株価は下落。一方、上方修正したソニーグループの株価は上昇した。
ニッセイ基礎研究所のチーフ株式ストラテジスト、井出真吾氏は「明確なガイダンスがないと投資家は買いに動けないようだ。不透明感が強い中、株式市場の醍醐味である期待を込めた『青田買い』ができない状況」と指摘する。
足元ではアフガニスタンなどでの地政学リスクの高まりも加わり、当面は一部の銘柄や業種に集中するような限定された個別物色が続く可能性が大きいとみられている。
(伊賀大記 グラフ作成:照井裕子 編集:田中志保)
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