• 2021/08/17 掲載

焦点:テーパリングで意見対立、FRB議長に総意形成の難題

ロイター

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[サンフランシスコ/ワシントン 13日 ロイター] - 連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長は就任前に理事を約6年間務めたが、その間一度も連邦公開市場委員会(FOMC)で反対票を投じたことはなかった。

だが常に全体案に賛成していたわけではない。パウエル氏は、2007─09年の金融危機に端を発する景気後退が終わった後も巨額の資産購入を続けていたFRBの姿勢を懸念し、他の理事2人と共に当時のバーナンキ議長を説得。議長は恐る恐る2013年に政策方針を転換し、テーパリング(資産購入の縮小)を始めることになった。

パウエル氏は今、当時のバーナンキ氏のようなプレッシャーを感じている。コロナ禍中に開始した特例的な景気刺激策をいつ、どのように縮小するかを問われる重要な岐路に立ち、FOMCメンバーらの総意を形成しなければならないのだ。

月額1200億ドルに上る資産購入のテーパリング開始時期を巡り、ここ数日、FRB高官から相反する意見が絶え間なく発せられている。

FOMCの中核を成す理事は通常、明確な意見表明を控える傾向があるが、最近は理事の間の対立も表面化。水面下で激しく意見を戦わせているのは明らかだ。

パウエル氏自身の見解は、「(雇用・物価の目標に向けた)さらに顕著な前進」というテーパリング開始の条件達成には「まだ距離がある」というものだ。物価上昇は一過性のものである、との考えも繰り返し示してきた。

11日に発表された7月の消費者物価指数(CPI)は、前年同期比でみると上昇率が13年ぶりの高い水準を維持したが、前月比では伸びが鈍化し、インフレが峠を越した暫定的な兆しが見えた。

FRBは何十年間も、ほぼ全員一致で政策を決定することによって信頼を得てきた「コンセンサス」組織だ。2019年に地区連銀総裁3人がFOMCで反対票を投じた例はあるが、過去25年間で反対票を投じた理事は2人だけで、最後の事例は2005年だった。

しかし、前ミネアポリス地区連銀総裁で現在はロチェスター大学教授のナラヤナ・コチャラコタ氏は、「反対をちらつかせるだけでも強い影響力がある」と言う。

コチャラコタ氏によると、FOMCでは全員の賛成を確保するため、投票権を持つメンバーには事前に働きかけがある。「私が仕えた議長らは、反対票が出ないのが望ましいという考え方だった」と述べた。

<小さな相違も積もれば>

今回の対応次第でパウエル氏の明暗は大きく分かれそうだ。過去の決断の評価が問われるだけでなく、将来もかかっている。

パウエル氏率いるFRBは昨年、金融政策の新戦略を導入した。雇用目標に重点を置き、物価目標の達成には大きな柔軟性を持たせたのだ。パウエル氏は今、不快なほど高くなったインフレ指標を前に、この新戦略を遂行するという難しい課題を突きつけられている。

パウエル氏がどのような政策を採用するか、そしてそれに向けた総意形成に成功するか否かは、バイデン大統領が同氏のFRB議長再任を判断する上での試金石になる可能性もある。

FOMC内の意見対立は、あるレベルで見ればささいなものに過ぎない。ウォラー理事が先に提案したように、就業者数の力強い伸びを受けて9月にテーパリングを発表するか、あるいはブレイナード理事が言うように、少なくとも11月2─3日のFOMCまで待つかだ。

もう1つの争点は、セントルイス地区連銀のブラード総裁の推す急速なテーパリングと、ダラス地区連銀のカプラン総裁が望む段階的なテーパリングのどちらを選ぶかというもの。

しかしシカゴ大学ブース経営大学院のランドール・クロズナー教授は、小さな意見の相違も積もれば山となる、と指摘する。

クラリダFRB副議長が4日、インフレ率の高止まりについてパウエル議長よりも強い懸念を示し、2023年初めという具体的な利上げ開始時期に言及したことは、一部幹部の間でムードが変わりつつある兆しかもしれない。

ハイ・フリークエンシー・エコノミクスの首席米国エコノミスト、ルビーラ・ファルーキ氏は「FOMCの中核メンバーが政策変更時期の案を示すとは驚きだ」と述べた。

<妥協案か>

FOMC内でテーパリングと利上げを急ぐべきだとの意見が強まっていることから、パウエル氏は中核メンバーを味方に付けておくために早めに動かざるを得なくなるかもしれない。

その場合、2013年の歴史が繰り返されることになる。パウエル氏と他の理事2人はバーナンキ氏を説得し、実際に反対票を投じることなくテーパリングを表明させることに成功した。バーナンキ氏は回顧録で「私は彼らに、証券購入に関する私の意見はあなた方と異なるが、あなた方の意向を取り入れるよう最善を尽くすと告げた。『理事会の支持を得られなければ議長としての私の立場は維持できない』と話した」と振り返っている。

明確なのは、パウエル氏が造反を防ぐために妥協案の策定を迫られるであろうことだ。

ダラス地区連銀のカプラン総裁は意見対立の表面化について「FOMCは討論と対立がある時に最善の結論を出せると考えている」と強調するとともに、「(現在の対立は)より良い政策決定につながる可能性の方がずっと大きい」と語った。

(Ann Saphir記者 Lindsay Dunsmuir記者)

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