• 2021/09/30 掲載

アングル:岸田相場はゼロ地点、菅首相の「蹉跌」を克服できるか

ロイター

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伊賀大記

[東京 30日 ロイター] - 日本株のバリュエーションでみれば、岸田文雄自民党新総裁の評価はほぼニュートラルな位置からスタートする。改革期待はやや後退したが、政策の安定性は高まった。菅義偉首相を退陣に追い込んだ新型コロナウイルス対策と景気の両立、医療逼迫の回避、適切な情報発信などの課題を克服し長期政権を築けるか、マーケットは見極めようとしている。

<市場が好む安定感>

31年ぶりの高値を付けた日経平均株価だが、高くも安くもない水準に戻っただけだ。日経平均の予想PER(株価収益率)は米金利上昇を嫌気した世界的な株安でやや低下したものの、歴史的な平均レンジ14─16倍内にほぼ入ってきている。

海外投資家は9月に入り3週間で1兆9604億円買い越した。しかし、今年はそれまでに1兆8279億円売り越しており、需給的にはほぼ中立に戻った程度にすぎない。約7割が先物であり、様子見姿勢を続ける長期投資家も多い。

29日午後2時過ぎに自民党総裁選の第1回投票結果が明らかになると、日経平均は下げ幅を200円ほど拡大したが、終値はほぼ元通り。岸田氏勝利の可能性が嫌気されたというよりも、いったんの材料出尽くし的な利益確定売りが出たとみえる動きだった。

財政拡張や大胆な改革を株式市場は期待するが、安定性もまたマーケットが好む材料だ。「岸田文雄氏の政策は4候補の中で最もオーソドックスであり、自民党の王道とも言える。良く言えば、安定感があり政策の予測可能性が最も高い」と、シティグループ証券のチーフエコノミスト、村嶋帰一氏は指摘する。

改革後退のイメージも「総裁選を戦った河野太郎行革担当相、高市早苗前総務相、野田聖子幹事長代行を人事でうまく配置すれば挽回も可能だ」(ニッセイ基礎研究所のチーフエコノミスト、矢嶋康次氏)という。

<消えないコロナリスク>

岸田氏の追い風は、新型コロナの新規陽性者数が減少傾向に転じていることだ。緊急事態宣言も今月末で解除されることから、景気回復や企業活動の再開が期待されている。「投資家からも景気回復の恩恵を受ける業種などの問い合わせが増えてきた」(外資系証券)という。

だが、コロナ感染再拡大のリスクは消えたわけではない。足元の感染者減少の要因ははっきりしておらず、季節性要因にすぎないとの見方もある。米国やイスラエル、韓国など、ワクチン接種率が比較的高い国でも感染が再び拡大していることも懸念材料だ。

菅政権が克服できなかったコロナ患者の受け入れ医療整備の問題は、岸田氏もいずれ直面する恐れがある。民間医療が大半を占める日本は、今のところ強制することは難しく、医療逼迫のリスクはつきまとう。岸田氏は健康危機管理庁(仮称)の新設などを掲げるが、この冬には間に合いそうにない。

日本は新規感染者の数自体は世界的にみて比較的少ないが、景気への影響は新規感染者の数ではなく、経済抑制政策の強度で決まる。医療体制が逼迫し、緊急事態宣言が再発出されることになれば、日本株は再び出遅れ感の強い状態に戻る恐れがある。

<求められるコミュニケーション力>

人流を抑えるような経済抑制策が効果を発揮するには、国民がその政策に対して納得することが欠かせない。求められるのは国民が共感できるようなコミュニケーションであり、菅内閣の支持率が低下した大きな要因となった。

りそなアセットマネジメントのチーフ・エコノミスト、黒瀬浩一氏は「危機のときは誰がリーダーでもうまくいかないものだ。政策の意義や内容を国民を納得させることが重要になる」と指摘。米国の大恐慌時のフランクリン・ルーズベルト大統領を例に挙げる。

同大統領のニューディール政策の根幹となった1933年の全国産業復興法は、最高裁で全員一致の違憲判決を受けるなど、批判も多い政策だった。それでも36年の大統領選挙でルーズベルトは圧勝。当時普及し始めたラジオを使って国民に直接話しかける「炉辺談話」が効果を発揮したと言われている。

岸田氏に対し「海外投資家に対して英語での発信力も期待できる」(マネックスグループ社長の松本大氏)との声もあるが、首相の座に就いてのコミュニケーション能力は未知数だ。自民党総裁選後の会見では、わずか30分の時間設定に不満も出た。

中国恒大集団の債務問題や米金利上昇で世界の株式市場は荒れ気味だ。衆院選に続き来年夏の参院選も待ち構える。岸田氏が、菅氏の「蹉跌(さてつ)」につまずけば、マーケットが嫌う政治の不安定化が再び起きることになる。

(伊賀大記 編集:青山敦子)

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