- 2021/10/22 掲載
アングル:中国不動産セクター覆う「隠れ債務」の不安
経営危機に陥った中国不動産大手、中国恒大集団に続いて問題を起こす企業はどこかと目を光らせている投資家にとって、難題はこの「正しい数字」を見つけることだ。帳簿上の数字を見ただけでは、全体像が分からないこともある。
中国政府が2017年に企業債務の締め付けに乗り出して以降、多くの不動産開発会社は簿外の手段を使って金を借り、規制当局の監視を逃れてきた。アナリストや弁護士がそう語っている。
人気の手法は合弁事業だ。過半数株式を保有していない合弁事業の詳細は開示せずに済み、同事業が持つ債務は簿外に置いておけるからだ。
弁護士のフー・シウェイ氏は「ほぼ全ての開発会社が債務を偽装している。このセクターの債務問題は見かけよりも悪い」と言う。
公式統計に基づくノムラの推計では、中国の不動産開発会社は6月末時点で、さまざまな経路を通じて総額33兆5000億元(5兆2400億ドル)の債務を抱えていた。ノムラは「ほかにも、まだ発覚していない不透明な資金調達経路があるのは間違いない」としている。
海外のペーパーカンパニー経由で発行した私募債も、新たな懸念として浮上した。
格付会社フィッチ・レーティングスは今月のリポートで、不動産開発会社の花様年控股集団(ファンタジア・ホールディングス・グループ)から、財務諸表に載っていないとみられる私募債1億5000万ドルの存在を最近「初めて」告げられたことを明らかにした。
花様年は今月4日、返済期限を迎えた債務の返済ができなかったと発表した。同社はロイターからのコメント要請に答えなかった。
経営難に陥った不動産開発会社の大半が国際資本市場から締め出されている今、投資家は当然のことながら、隠れた債務を探し始めている。
JPモルガンの分析によると、最も打撃を被っている開発会社の中には、傷が浅めの企業よりも財務諸表の見栄えが良いところもある。いかにバランスシートに信用が置けないか、ということだ。
ムーディーズから格付けを得ている中国の不動産開発会社70社中、合弁事業に「多額」の出資をしているのは27社。2015年にはこれが49社中5社だった。
不動産開発会社が出資する合弁事業の典型例は、自社が少数株主持ち分を保有する不動産プロジェクトを設置し、固定リターンを約束して資産運用会社もしくはプライベート・エクイティ・ファンドから資金提供を仰ぐという仕組み。不動産開発会社は何年か後に、これらの投資家から株式を買い戻す契約を結ぶのが通例だ。
<象徴>
恒大集団は以前から、借金によって成長を遂げる中国不動産セクターの象徴だった。同社の債務は3000億ドル余りと、中国の国内総生産(GDP)の約2%に相当する。
ひっきりなしに新たな物件を売って運営資金を賄う恒大集団の資金調達モデルは昨年、政府の「三道紅線(三本のレッドライン)」導入を機に、急速に危機に陥った。
これは不動産開発会社のキャッシュ、資産、資本に対する債務比率に上限を設ける規制だ。
アナリストによると、恒大集団は合弁事業を多く抱えているわけではないが、理財商品の販売など、簿外の手段で借金をしていたのは確かだ。
ロイターが閲覧した債券の契約要綱によると、私募債による調達も多かったとみられる。
JPモルガンのアナリストチームの推計では、恒大集団の正味のギアリング比率(負債比率)は6月末時点で少なくとも177%と、バランスシート上に記されている100%を大幅に超えている。
恒大集団だけではない。JPモルガンの推計では、「偽装債務」を戻し入れると広州富力地産(R&Fプロパティーズ)の負債比率は123%から139%に、融創中国控股(サナック・チャイナ・ホールディングス)は87%から138%に、それぞれ跳ね上がる。これらは氷山の一角だ。
ある債券規制当局者は「恒大集団の本当の債務規模を確実に知っている者はいないだろう」と語った。
<少数株主持ち分>
投資家の監視が強まったため、合弁事業の一部をバランスシートに載せ始める不動産開発会社も出てきた。格付け会社S&Pグローバルが今年出したリポートによると、ほとんどの場合、この措置によって少数株主持ち分が急増する。
少数株主持ち分は債務ではなく資本と見なされるため、書類の上では企業の財務力が強化される。
花華様の期日に債務を返済できない事態を機に、不動産セクター全体に売りが広がり、中国企業のドル建て高利回り社債の利回りスプレッドは5月末から3倍近くに拡大した。
大きく売り込まれたことで価格は低落し、一部社債の利回りは現在200%を優に超えている。投資家の中には今週、危険を承知で再び足を突っ込む者も出てきた。
エーゴン・アセット・マネジメントの新興国市場債責任者、ジェフ・グリルズ氏は「隠れたリスクは必ずある。問題は、前もってそれを察知するのは難しいということだ」と語った。
(Samuel Shen記者、Marc Jones記者、Clare Jim記者)
関連コンテンツ
PR
PR
PR