- 2022/01/26 掲載
焦点:FRB「デジタルドル」導入はるか先か、議会に判断委ねる
FRBは20日、デジタルドル採用の是非について論点をまとめた待望の報告書を公表した。FRB自体はこの中で賛否どちら側にもつかず、議会に決定を委ねるとしている。
CBDC推進派の多くは、デジタルドルについて何らかの政策をまとめる上で、報告書が重要な節目になると考えている。しかし、議員がこの問題を巡って混乱し、各党内でさえ意見が対立している以上、早期の結論は期待しない方が良いとアナリストは言う。
仲介業務などを手掛ける金融サービス会社BTIGのディレクター、アイザック・ボルタンスキー氏はリポートで「この報告書はほとんど結論を出していない。FRBのCBDCは何年も先に発行されるのが関の山、というわれわれの見方を裏付けるものだ」とした。「議会で結論が出ることには懐疑的だ」という。
CBDCは民間主体が運営する暗号資産(仮想通貨)と異なり、中銀が発行し、裏付けとなる。大手商業銀行が仲介する電子決済と違う点は、現金と同様に消費者が直接中銀に対して請求権を持つことだ。
FRBは報告書で、デジタルドルは金融システムを変革し、世界の決済スピードを速め、消費者の金融システムへのアクセスを向上させると指摘した。一方で、デジタルドルの設計に不備があれば銀行に悪影響を及ぼし、金融システムを不安定化させ、プライバシーの問題を生じさせかねないともくぎを刺している。
アトランティック・カウンシルによると、CBDCを発行、または発行を検討しつつある国は中国を含めて約90カ国に及ぶ。米国がドルをデジタル化しなければ、主要準備通貨という世界の金融システムにおける支配的地位を明け渡すことになる、との懸念も持ち上がっている。
JPモルガンの首席エコノミスト、マイケル・フェロリ氏は、ただでさえ分断が激しい政治環境の中で、デジタルドルという込み入った問題で合意に至るのは「長い道のりにみえる」とリポートに記した。
共和党議員の一部は、FRBが革新的技術を採用することに賛成している。一方、中銀が出しゃばって民間銀行と競い合うことへの懸念も党内にはある。
デジタル通貨推進派の筆頭であるシンシア・ルミス上院議員(共和党)はFRBの報告書公表後、「CBDCに正当な必要性があるかどうか、正直言って結論を出せないでいる」とツイッターに投稿した。
上院銀行委員会のシェロッド・ブラウン委員長など民主党急進派の一部議員は、基本的な金融サービスへのアクセス向上につながるとしてデジタルドルを支持している。しかし、その他の民主党議員はデジタルドルは違法な目的に使われかねないとの懸念を抱く。
ブラウン氏は20日、報告書は「良い最初の一歩」になったと語り、他の一部議員も法制化作業を楽しみにしていると述べた。ブラウン氏は法案策定で指導的役割を担う見通しだが、上院の議席は民主・共和両党が拮抗している。
仮に議会が年内に法案を可決できたとしても、デジタルドルの導入には長い試験期間と実施準備期間が必要になりそうだ。
議会に議論を始めるよう働きかけている法律事務所ダビドフ・ハッチャー&シトロンのジョナサン・マッコラム氏は「たとえ今日始めたとしても、現実化するまでには数年かかるだろう」と語った。
議員や規制当局、ホワイトハウスが議論している間に、民間セクターが先に商品開発を進め、デジタルドル導入の意義が弱まるかもしれない、とキャピタル・アルファ・パートナーズのマネジングディレクター、イアン・カッツ氏はリポートで指摘。「数年先にようやく導入されたとしても、その時点でFRBのCBDCは現在ほど世界を変える力を持っていないだろう」とした。
(Pete Schroeder記者)
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