- 2022/02/28 掲載
焦点:底堅いドル/円、ロシアのSWIFT排除も影響限定的か
<ユーロ安に警戒>
金融市場におけるロシアのSWIFT排除の影響として予想されているのは、ロシアの銀行で決済が難しくなる可能性がある原油や天然ガスの価格上昇のほか、ロシアの株価や通貨ルーブルの下落だ。
元ロシア中央銀行副総裁のセルゲイ・アレクサシェンコ氏は「週明けのロシア通貨市場に大惨事が起こる」と警戒。「この制裁がどのような条件で全て解除されるのかが明確でないため、1991年のロシア金融危機よりはるかに悪い状況」とみている。
ロシア経済と関係が深い欧州のユーロ下落も警戒されている。欧州中央銀行(ECB)が前回の理事会でタカ派姿勢を示したことで強まっていたユーロの上昇期待が剥落する中、ロシア産の石油とガスの輸入減少や価格高騰で欧州経済がダメージを受ければ、ユーロ売りに拍車がかかる可能性がある。
楽天証券のFXディーリング部、荒地潤氏は「ヨーロッパはロシアに対する銀行融資が多いため、経済制裁を強く行ってしまうと、ヨーロッパの銀行が倒産するリスクもある」と指摘。ECBの利上げ後ずれの思惑が広がれば、ユーロ円の下落がドル/円に波及する可能性があるとみている。
<FRBには影響限定的か>
一方、米国のドルはリスクオフのドル買いに加え、ユーロ安の影響も受けるため、強含みの展開が予想されている。ロシアからの原油やガスの輸出が減少すれば、米国からの原油やガス輸出が増加する可能性もあり、米経済への影響は欧州などと比べて比較的軽度にとどまる見通しだ。
市場の焦点は、地政学リスクがFRB(米連邦準備理事会)の利上げやQT(量的引き締め)ペースに影響を与えるかどうかだが、現時点では、FRBの金融政策の方向性に大きな変更はないとの見方が多い。
「米国民にとって原油価格上昇は増税と同じだ。インフレ高進への懸念はあっても、ガソリン価格上昇で国民感情が悪化する中、FRBは利上げペースを速めるのは難しいのではないか。かといってインフレを加速させかねない金融緩和もできない」と、グローバルマーケットエコノミストの鈴木敏之氏は指摘する。
週明け28日早朝の取引で、ドル/円は115円半ばで推移。前週末25日のニューヨーク市場終盤(115.56/59円)とほぼ変わらずの水準で推移している。
<リスクオフの円買い強まらず>
リスクオフの円買いは今回も強まらなかった。ロシアによるウクライナ侵攻開始後、ドル/円は24日に、115円近辺から114.40円まで下落したが、すぐに115円後半まで戻してしまった。
以前より、リスクオフの円買いが発生しにくい背景としては、円キャリートレードが少なくなっていることで巻き戻しが起きにくくなっているほか、「投機対象としても円は最近人気がない」(東海東京調査センターの金利・為替シニアストラテジスト、柴田秀樹氏)という。
日本が貿易赤字化したため、有事の際に日本に戻す外貨も少なくなっていることも「有事の円買い」が発生しにくくなっている背景だ。むしろ今回は、原油価格の上昇で貿易赤字が拡大すれば円安要因になる。
日米金利差も開いたままだ。世界的な金利上昇に連動する形で日本の円金利も上昇したが、日銀は「指し値オペ」を使って10年金利の頭を押さえた。海外勢を中心に日銀の金融正常化への思惑はくすぶるものの、黒田東彦総裁など日銀幹部からは早期の政策修正に否定的な発言が続いている。
(浜田寛子 編集:伊賀大記)
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