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- 2025/07/15 掲載
なぜOpenAIは「破格」で買収? コーディングでClaudeに「完敗」の深刻
バークリー音大提携校で2年間ジャズ/音楽理論を学ぶ。その後、通訳・翻訳者を経て24歳で大学入学。学部では国際関係、修士では英大学院で経済・政治・哲学を専攻。国内コンサルティング会社、シンガポールの日系通信社を経てLivit参画。興味分野は、メディアテクノロジーの進化と社会変化。2014〜15年頃テックメディアの立ち上げにあたり、ドローンの可能性を模索。ドローンレース・ドバイ世界大会に選手として出場。現在、音楽制作ソフト、3Dソフト、ゲームエンジンを活用した「リアルタイム・プロダクション」の実験的取り組みでVRコンテンツを制作、英語圏の視聴者向けに配信。YouTubeではVR動画単体で再生150万回以上を達成。最近購入したSony a7s3を活用した映像制作も実施中。
http://livit.media/

AIエディターDevinを手がける米Cognition AIは7月14日、WindSurfを買収すると発表した。11日にはWindsurf自ら、グーグルが同社幹部の一部が移籍したことを発表していた。
OpenAIが買収検討するWindsurfとは?
OpenAIがWindsurf買収で合意に至ったと報じられた。買収額は約30億ドルとされ、同社にとって過去最大規模の買収となる見込みだ。年間経常収益が1億ドル規模のWindsurfに対して30億ドルという評価額は、OpenAIがこの買収にかける期待の大きさを物語る。Windsurfとは、2021年に設立されたAI支援コーディングプラットフォーム。創業者のヴァルン・モハン(CEO)とダグラス・チェン氏は、当初「Exafunction」という社名でGPUインフラの最適化に取り組んでいた。しかし2022年、AIコーディングツール「Codeium」の開発へと軸足をシフト。このCodeiumがWindsurfの前身となる。
Windsurfの最大の特徴は、開発者を「置き換える」のではなく「補完する」という設計思想にある。プロジェクト全体のコードベースを分析し、文脈に即したコード提案を行う。これにより、AIによる的外れな提案(ハルシネーション)を抑制し、実用的な支援を実現している。開発者にとっては、まさに「コックピット」のような存在となり、コードの作成・レビュー・修正を高速化しながらも、主導権は開発者側に残される設計だ。
2024年後半には、Visual Studio Codeをベースとした統合開発環境「Windsurf Editor」をリリース。単なるプラグインを超えて、複数ファイルにまたがるコード修正を可能にする「Cascade」機能や、開発者の作業にリアルタイムで適応する「AI Flows」機能を実装した。
成長スピードも驚異的だ。2022年時点のユーザー数は限定的だったようだが、2025年初頭には80万人のアクティブユーザーを獲得。2025年4月時点では100万人を突破したという。企業顧客も1000社を超え、アマゾン、メタ、ウーバー、デル、Zillowといった大手テック企業も導入を進めているとされる。
収益面でも急成長を遂げており、2024年末の年間経常収益1200万ドルから、2025年2月には4000万ドル、春季には1億ドル規模に到達。わずか1年足らずで約8倍の成長を実現した計算になる。
企業におけるVS Code利用とWindsurfの強み
Windsurfの強みの1つは、VS Codeをベースとしている点にある。2024年のStack Overflow開発者調査によれば、回答者の73.6%がVS Codeを利用していることが判明した。これは2位以下の倍以上となる数値だ。
当初、CodeiumはVS Codeの拡張機能として登場し、既存の開発環境に直接AI支援を組み込むアプローチを採用していた。開発者や企業チームは、使い慣れたIDEにプラグインをインストールするだけでAIツールを導入でき、ツールの切り替えを求められることなく、数百万件のコード提案を受けられるようになった。
しかし開発チームは、拡張機能だけでは限界があることを発見する。数十のファイルにまたがるコード変更の調整や、コーディングタスクを積極的に支援するAIエージェントの実装は、VS Codeの拡張機能内では困難だった。そこで、VS CodeからフォークしたカスタムIDE「Windsurf Editor」を構築。AIを統合し、開発者との協調的なマルチステップコーディングタスクを可能にする「AI Flows」機能を実装した。直近では、さらに進化した「Cascade」機能がマルチステップコーディングタスクを担っている。
企業視点では、VS Codeベースであることが2つの重要な利点をもたらしている。第一に親和性、第二に柔軟性だ。多くの企業開発チームは既にVS Codeを標準化しており、UIやプロジェクトワークフローが馴染み深いため、大規模組織での導入障壁が低い。また、VS CodeのソースコードがMITライセンスで公開されているため、Windsurfはこれを基に独自の展開が可能となり、企業のセキュリティ要件に応じてクラウド、オンプレミス、ハイブリッドなど様々な導入形態を選択できる。
こうした企業向けアプローチは、AIによるコード生成が急速に普及する現状と合致する。マイクロソフトのサティア・ナデラCEOは2025年4月、同社の一部リポジトリでコードの約30%がAIによって記述されていることを明らかにした。この割合は継続的に増加しており、一部プロジェクトでは40%に近づいているという。グーグルでも同様の傾向が見られ、2024年半ば時点で新規コードの25%以上がAIシステムによって生成されていた。
Windsurfは、コードレビューの高速化、レガシーコードの最新標準への更新、スタイルやセキュリティガイドラインの適用、新規開発者のオンボーディング短縮など、企業にとって重要なユースケースに焦点を当てている。同社ウェブサイトによれば、Windsurfを積極活用する先進的な開発チームでは、生産性が25%向上し、新規メンバーが戦力化するまでの期間が4分の1に短縮されたという。 【次ページ】OpenAIの深刻すぎる状況、「実力差」はどれほどか?
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