• 2022/05/01 掲載

アングル:かき揚げそばが映す世界経済、庶民の味にインフレ圧力

ロイター

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基太村真司 岡本亜希子

[東京 28日 ロイター] - 日本の食文化を代表するそば、とりわけ安さが売りの立ち食いそばは原材料の多くを輸入に依存し、その一杯はインフレに直面する世界経済の今を凝縮している。すでに値上げに踏み切ったチェーン店もある中、「ロシア」、「円安」という要因が加わり、一段のコスト上昇圧力を受けている。関係者の間では「いつでも気軽に食べられるものではなくなってしまうかもしれない」(製粉大手)との危機感が広がる。

<ロシアからの輸入がトップ>

「さすがに今回は、ちょっと(値段を)上げなくちゃ無理かなという状況に陥っています」。東京都港区にある高本製麺所の店主・石原隆さんは顔を曇らせる。石原さんは以前から働いてきた同店を17年前に引き取り、経営を続けてきた。ここまでのコスト高に直面したことはなかった。

そばの主原料であるソバの実は、国内消費量の6割程度が国産より安い輸入品。立ち食いそば店は、様々な特色がある各国の粉を独自に配合して味を競っている。

輸入品の価格はここ5年で6割超上昇した。日本蕎麦協会によると、19年まで最大の輸入相手国だった中国で、より収益性の高いとうもろこしなどへ転作する動きが活発化したことが背景にある。

ロシアによるウクライナ侵攻が、その流れに拍車をかける。中国が減産した結果、19年時点で3位だったロシアの存在感が増し、今年に入って輸入相手国の首位となった。ロシアは実を茹でて食べる習慣があり、生産量では世界一のそば大国だ。

製粉大手の日穀製粉(長野市)の担当者は「経済制裁による決済の停止や物流の混乱で入荷に遅延が発生している」と話す。円安環境下、この状態が長引けば品薄による一段の価格上昇は避けられない情勢だ。

「名代富士そば」を展開するダイタンホールディングス(東京都渋谷区)は今年に入り、かけそばを310円から340円へ引き上げた。昨年5月にかけそばを340円から360円へ値上げした「ゆで太郎」のゆで太郎システムズ(東京都品川区)も、最近の材料高騰を背景に追加値上げを検討中だという。

「給料が上がっていないのに、食料品が上がっているというのは、やはり家庭には痛い」と、安さと味に引かれて高本製麺所に通うタクシー運転手の山崎智子(52)さんは語る。「今まで海外に頼っていた部分があるので、それを高く仕入れなければいけなくなり、お店側は値上げしないと運営できない。仕方ないことだなと思っている」

<つゆもトッピングも>

立ち食いそばのコストを圧迫しているのは、麺だけではない。つゆからトッピングまで、あらゆるものの材料が値上がりしている。

そば粉と混ぜたり、揚げ物に用いる小麦粉は、9割を海外に依存し、日本政府が米国やカナダ、豪などから国家貿易としてまとめて輸入している。市況や為替の変動などを考慮して半年に一度、価格を改定しながら製粉企業などへ売り渡す仕組みだ。

そば業界の関係者の間で驚きの声が上がったのは今年3月。4月の政府売り渡し価格が1トン当たり7万2530円と、前回の昨年10月から一気に17%アップし、過去2番目の高水準へ跳ね上がった。昨夏の荒天で米国とカナダ産が不作、さらに価格高騰で国内分が手当てできなくなったロシアが一時的に輸出を規制したためだった。

さらに最近では、ロシアのウクライナ侵攻による供給不足懸念で先物価格が急伸し、14年ぶりの高値をつけるなど追加値上げへの懸念が衰えない。

店の顔であるつゆの味を決めるしょうゆ、揚げ物用の油などは、ともに原材料である大豆が高騰している。業務用の食用油は斗缶と呼ばれる18リットル入りの角形缶が主な取引単位で、日清オイリオグループは今月1日から斗缶当たり700円以上価格を引き上げた値上げた。およそ1割の値上げとなる。

バイオ燃料需要の増加、中国の旺盛な需要、ラニーニャ現象、カナダの高温乾燥、インドネシアの規制──日清オイリオの発表文にはその理由が列挙されている。コスト高要因は複雑に絡み合い、容易に鎮静化しそうにない。

今年2月に14年ぶりの値上げに踏み切ったしょうゆ最大手のキッコーマンは4月27日の決算発表で、2023年3月期の業績予想の公表を見送った。原材料価格と為替の変動が大きく、予想数値を示すことが困難だとした。

同社の中野祥三郎社長は、今後の追加値上げの可能性を問う質問に、現時点で決まったことはないとしながら「今後の原料価格などの動きを注視しながら考えていく」と述べた。

「10円、20円単位で日々勝負しているだけに、様々なものが同時に値上がりする中で、非常に重い負担増」と、高本製麺所の石原さんは言う。「10%から15%ぐらいは上げる品物が出てきそうだ」

(基太村真司、岡本亜希子 取材協力:伊藤光雪、グラフィック:照井裕子、編集:久保信博)

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