• 2007/07/17 掲載

個人情報「過」保護の見直し(1):個人情報保護法の構造的問題

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個人情報の保護に関する法律(通称、個人情報保護法)は、2005年4月に経過措置等を終了して全面施行された。以後、日本経済や国民生活に甚大な影響を及ぼしながら現在に至っている。名簿類は続々と廃止され、地域社会は情報が滞って崩壊寸前であり、政府の情報開示も個人情報保護を言い訳にして後退しつつある。こうした中で同法の見直しは、いかなる枠組みと方向性を持って行なわれるべきかだろうか。国際大学グローコム客員教授青柳武彦氏が巨視的な観点から考察を行う。

個人情報保護法の見直し作業

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青柳武彦(あおやぎたけひこ)
国際大学グローコム客員教授。1934年、群馬県桐生市生まれ。東京大学経済学部卒。伊藤忠商事に入社後、伊藤忠システム開発取締役、日本テレマティーク社長、会長などを歴任。95年より06年まで国際大学グローコム教授(情報社会学、情報法)。著書に『個人情報「過」保護が日本を破壊する(ソフトバンク クリエイティブ)』など多数。

 国民生活審議会の個人情報保護部会は、2008年度の同法見直しに向けて法の施行状況や実態に関するヒアリングを行ってきた。マスコミ業界など関係各方面からは、かなり批判的な、しかし建設的な意見が数多く寄せられたので、相当程度の軌道修正が行なわれるのではないかと期待していた。

 しかし、2007年6月11日の同部会で発表された「個人情報保護に関する取りまとめ(案)」を見る限りでは、当局側には同法の問題点についてまったく認識がないし、反省もないようだ。いわく「過剰反応は落ち着いてきており」、法の趣旨について例外規定の活用などの「きめ細かな周知徹底」をはかれば、法改正の必要はないというものだ。

個人情報保護法は構造的に“過”保護

 高度情報社会においては、プライバシーに属する個人情報を護るこの種の法律は絶対に必要なのだが、このままではマイナス効果がプラス効果を上回るといわざるを得ない。同法は次の3つの理由によって構造的に過保護法なのだから、それを直す必要がある。改正を行なったとしても条文の細部を手直しした位では問題は解決しない。

 第1に、異なるレイヤーの個人情報を区別せずに一律に扱っている。一般の人は、プライバシー性の低い個人情報でも、違法になるのを避けるために慎重になって、あたかもそれがディープデータであるかのごとき扱いをしてしまう。それが“過”保護につながるのだ。

 第2に、規制の条件が国際的に見て厳しすぎる。同法は、OECD(経済協力開発機構)理事会が1980年に採択した、有名な8原則を含む「プライバシー権保護と個人データの流通についてのガイドラインに関する理事会勧告」(以下、単にOECDガイドラインと称する)に準拠している。つまり四半世紀以上も前の、アップルコンピュータ社が株式を公開した年で、まだコンピュータは大型コンピュータの時代であって、パソコンもネットワークも現在ほどは普及していなかった時代の理事会勧告に準拠しているのだ。

 OECDガイドラインは個人情報保護の手段として、情報主体の支配力および関与の権限を過度に認めているので、運用が極めて難しくなっている。このOECDガイドラインは、当時の欧州における経済界や産業界に極めて評判が悪く、厳しい批判がおきたという代物だ。その後、国際的な状況が大きく変化しているのだが、日本の個人情報保護法はそれをまったく反映していない。

 第3に、対象範囲が広すぎる。プライバシーにも属さない基本的な個人情報までも対象としているのだ。OECDガイドラインの正式名称に「プライバシー」の言葉が入っているように、そもそもこのガイドラインはプライバシーに属する個人情報に関するものなのだ。総論の中の「ガイドラインの適用範囲」(b)においても「プライバシー権と個人の自由に対して、明らかにいかなる危険性をも含んでいない個人データについて、ガイドラインの適用を除外すること」を妨げるものと解釈すべきではない、とはっきり規定している。

 つまりガイドラインに準拠して各国が法制度を整備するときに、プライバシー権に属さない個人情報は法制度の対象から除外してもよいのだ。日本の個人情報保護法は、この重大な部分が欠落してしまっている。つまり、国際的に厳しすぎるOECDガイドラインでさえも原則的に対象から除外している非プライバシー権個人情報を、日本の個人情報は規制対象に入れてしまっているのだ。

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