• 2008/01/24 掲載

【中国ビジネス最前線(11)】上海で日本人が集まるところ-天盛広告(2/2)

中国最大の日本人向けフリーペーパー「SUPERCiTY」を発行する「天盛広告」

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 前述した通り、中国では言論の自由が保障されておらず、自由に出版は行えない。そこで、天盛広告では関係当局とのリレーションシップにより、広告業ライセンスを利用して、あくまで広告として出版している。

留学生でさえ中国を知らない

制作現場ではMACが使われる
 天盛広告は、日本人向けのフリーペーパーを作るだけに、在中国の企業としては異例といえるほど日本人スタッフの率は高い。上海オフィスでは50名の従業員のうち22名が日本人で、北京オフィスについても35名中8名が日本人スタッフとなっている。日本人相手の出版物発行が仕事なだけに、製作現場では日本人スタッフと中国人スタッフ双方がMacを利用し編集している。中国の一般的な都市ではMacを見ることはまずないが、上海ともなるとMacで編集できる中国人もいるのである。

 日本人スタッフは中国語を学び留学した後に同社で働くケースが多い。長田氏は「一定期間留学しているにも関わらず、中国を知らない人が多すぎるような気がします。たとえば面接を行うと『日本人と中国人の違いは?』という単純な質問にも目が泳いでしまう学生が多い。そのため、日本の大学を卒業していきなり当社に面接に来るケースでは『まず日本の会社で社会を経験し、それから中国に飛び込んだ方があなたのためになりますよ』と説いています」

 スタッフの給与はというと、長田氏は「いわゆる上海相場です。日本人はだいたい平均1万元(約16万円)前後で、新卒は7000元(約11万円強)からスタートですが、業績や能力に応じて年1回、昇給しています。中国人であれば経験によりますが2000~2500元(約3万2000~4万円)。マネージャークラスには、日本人も中国人も役職手当を厚く支給しています。日系企業ではないので日本の雇用システムでないものの、ボーナスは年に1回、それに住宅手当と保険手当、営業職にはコミッションをつけています」

契約絡みのトラブルは絶えない

天盛広告の発行するSupercity
天盛広告の発行するSupercity
 中国人への取材依頼や中国系広告主との交渉事は、もちろん中国人スタッフが本領を発揮する。しかし、中国に慣れた現地スタッフであっても、営業、つまり広告掲載の契約絡みのトラブルは絶えないのだという。広告掲載料の不払いや滞納、複数月契約の一方的な違反だ。というのも、中国では「契約」自体の概念が非常に希薄であり、契約は遵守しなければならないという意識が低い。

 それに加えて、広告さえ打てば経営努力が無くともどんなお店でもお客が来る、どんな商品や価格でも売れる、といったビジネスに対する考え方が未成熟な一面もある。さらに極力安価な掲載料を得るために複数回契約を結び、すぐに解約する。これは多くの日系企業も直面している中国ビジネスの難しさであり、それが広告業界でもまかり通っているのである。

 フリーペーパーということは、採算を考えれば刷れば刷るほどマイナスになる。率直に言って外国でのフリーペーパーは儲かるものだろうか。長田氏は「読んでもらうためにできるだけ沢山刷っていますので、儲からないですし、儲かる業界でもないですよ」とコメントする。「売上の3分の1は人件費に、3分の1以上が印刷代に、その他もろもろの費用を支払うと利益は非常に薄いものです。5万部発行しているものについて、2万5000部に減らせば確かに一時的には儲かります。ですが読者と広告主を裏切るわけにはいきません。本業の不動産業がプラスになり、読者と広告主に喜んでいただき、スタッフが気持よく働ければそれでいいかと思います。」

 業界の俯瞰として長田氏は「淘汰が進み、体力がない企業ではやっていけない状態にはなっています」とコメントする。それもあって、SUPERCiTYの発行以外の多角化経営の目論見も語ってくれた。「2008年は北京五輪があり、2010年には上海万博が開催されます。しかし、その後は揺れ戻しがやってくるかもしれません。広告市場がどうなるかもわかりません。フリーペーパーだけではやっていけなくなったときに、それでも会社経営を続けていけるために、今新しいことに取り組んでいるのです」。前編でご紹介したWebへの展開もその1つだ。

 海外の1都市でどれくらい日本人がいればフリーペーパーでのビジネスはやっていけるのだろうか。「市場を独占できるか、競合他誌がどれくらいあるか、その都市の成熟度や風土・環境など各種条件にもよりますが、感覚で言うと国際的な大都市であれば1誌につき最低1万人、3誌なら3万人の読者がいなければビジネスとして無理ではないでしょうか。1誌につき1万人未満しか読者が確保できないような都市では利益を継続して出すのはかなり難しいと思います。」

 長田氏の考えるSUPERCiTYの目標について語ってもらった。「読者の皆さま、出稿いただいている広告主さまには上海と北京でナンバーワンの日本語フリーペーパーだと評価いただいております。今後もその座を永遠に維持していくのが当面の目標です」


山谷剛史
海外専門ITライター。守備範囲は中国・東南アジア・インド・北欧など。現在主に中国に滞在し、中国関連の記事を複数メディアで執筆。一般誌にも時々執筆するが、とはいえノンポリティカルな執筆が基本。統計数字だけではなく、できる限り誰にでも読めて分かり、匂いや雰囲気を感じることができる記事をつくるのがポリシー。そのために裕福な人々ではなく、国民の大部分である平民層以下にスポットを当て、現地で体を張って取材。

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