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- 2008/12/05 掲載
SOX法に漂う日本企業への警鐘:監査法人は本当に独立的な「最後の砦」か?
戸村智憲の内部統制の現状、ERMへの道のり
≫内部統制最前線(1):東京ガスのERMへの取り組み
≫内部統制最前線(2):日立製作所の内部統制、After J-SOXへの取り組み
≫内部統制最前線(3):日本マクドナルドの内部統制への取り組み
執筆:戸村 智憲 日本マネジメント総合研究所 理事長 岡山大学大学院非常勤講師 J-SOX 対応促進協議会顧問 アシスト顧問 元 国連内部監査業務ミッション・エキスパート 公認不正検査士、MBA 『リスク過敏の内部統制はこう変える!』著者 |
そこで、多くの企業は、監査法人の監査に係る考え方や内部統制構築・運用にあたっての監査法人が提供するアドバイザリー・サービスや、日本版SOX法コンサルティング会社の活用に神経を尖らせている。ここに、監査法人があたかも「企業の弱みにつけこむ」かのような「愚行」とも呼べるような行動に走る事態を、企業関係者が話してくれた内容から伺い知ることができた。なお、本連載記事の記載内容は表現の自由に基づく、あくまでも著者の私見であり、筆者および本媒体はこの記事によって引き起こされた損害賠償責任、刑事責任、一切の責任を負わないことを念のため申し上げておく。
ある企業の関係者がこう話してくれた。「監査法人との協議をして内部統制構築の方針確認・協議をしようとした初回の打ち合わせの際に、監査法人の担当監査人と一緒に、アドバイザリー契約を勧めに同じ監査法人の営業担当者がついてきた。そこでは、内部統制の話をする事ができず、監査法人からの営業トークに終始して内部統制に関する協議をする事ができなかった。」
常々著者は疑問に思っているのだが、内部統制のアドバイザリーにあたる人間と内部統制の監査にあたる人間が別だとはいえ、同じ監査法人が内部統制の構築を行い、それを監査するというのは、監査法人としての独立性を損なうものではないだろうか。
企業側は内部統制に係る監査において、金融庁の指針が示すように、早い時期に監査に係る協議を行いたいのだが、そこにアドバイザリー契約の営業担当者が同席して営業トークに終始するのはいかがなものかと思うのである。あたかも、「うちの監査法人のアドバイザリー契約を締結しないと、日本版SOX法の監査に通さないよ」と暗黙的にプレッシャーをかけているのではないかとさえ邪推してしまう。
もちろん、アドバイザリー契約の価格は決して安いものではない。しかし、企業側としては、「おたくの監査法人のアドバイザリー契約を締結しているから日本版SOX法の監査に通してね」とでも言えそうな、「高い保険」を掛けなければならないかのような心理的状況に追い込まれているのが実態と言っても過言ではないのではないだろうか。
また、アドバイザリー契約を結ばなければごく簡単な方針確認程度の協議すら提供しない監査法人についても、その姿勢に疑問を抱いてしまう。何かと理由をつけては、「御社担当の監査人は多忙で時間が取れない」と内部統制の協議を繰り返し拒否するのもしかりだ。
その企業は、結局、他のコンサルティング会社が良心的な価格でサポートするという申し出があったにも関わらず、「アドバイザリー契約を結ばない事で監査法人の心証を悪くしたくない」という思いから、「高い保険」を掛けることにしたようである。言ってみれば、その企業は、監査法人の暗黙的な「脅し」とでも言えそうなものに屈してしまった「被害者」となったと言っても良いのではないだろうか。
その企業は、安全策として監査法人のアドバイザリー契約を受け入れたのであるが、アドバイザリーにおいて適格な助言があったなら、それほど大きな問題ではなかったのかもしれない。しかし、監査法人を信頼してアドバイザリー契約を締結したその企業の大きな誤算が、内部統制構築の障壁として立ちふさがった。
総論として、ある程度何となくではあるが、監査法人のアドバイザリー・スタッフからうかがい知ることができたものの、いざ各論に話しが進むと、企業の内部統制担当者の不満が爆発した。いや、正確には、監査法人に対して不満を爆発させるのは、監査を受ける際に不利になりかねないとの強迫観念的な状況下で、不満という爆弾の企業内における「地下核実験」のごとく表面化させない形で不満が暴発したと言う方が正確かもしれない。様々な内部統制の充実に向けた施策を検討する過程で、アドバイザリー・スタッフに助言を求めても、はっきりとした答えが返ってこないばかりか、むしろ、専門用語で煙に巻くかのような「逃げ」の回答しか出してこなかったのである。
結局、その企業の担当者が実感として抱いた感想は、アドバイザリー・スタッフの言う事は、実務指針を繰り返して述べるだけで、本来は十分にその企業の事業特性を検討した上で判断・助言すべき一歩踏み込んだ助言は一切得られず、内部統制の監査を行う監査人と協議しようにも、「多忙で協議の時間が取れない」の一点張りで、まともに密な協議・コミュニケーションが行えないというものであった。もちろん、その企業がアドバイザリー・スタッフに質問した時点では、確たる監査法人側の基準ができていなかった、という事が背景にあるかもしれない。しかし、もしそうならば、はじめからその企業に対して、その企業の事業特性を勘案するべき内部統制のアドバイザリー・サービスの契約を、できもしないのに勧めるべきではなかったのではないだろうか。
ちなみに、著者は監査法人がアドバイザリー契約を一切行うべきでない、とは言っているわけではない。もし、監査法人が企業の詳細に渡る内部統制構築の各論に必然的に関わるアドバイザリー契約を勧めるなら、まず、監査法人が一歩踏み込んだ判断・助言を行える状況にあるべきだ、と言う事を指摘しているのである。
また、もし、監査法人がアドバイザリー契約で売上を上げたいならば、A監査法人のアドバイザリー契約はB監査法人が行い、B監査法人のアドバイザリー契約はC監査法人が行うなど、独立性・公平性・中立性を監査法人全体の統一されたレベルで保つべきであると考えているのである。そのような動きがない限り、監査業界の最低限の内部統制監査に係る受容レベルが築き上げられないように思ってしまう。
また、ある企業では、内部統制担当としてペアになった2人の監査人においても意見がコロコロ代わる、と言うことで対応に困っている。「前にペアの片方の監査人からOKが出ていたのに、もう片方の監査人がダメだと言ったり、その逆であったりして、監査法人を信頼できなくなった」という企業の話を聞くにあたり、監査法人が公認会計士の個人商店が寄り集まった「烏合の衆」になっていなければ良いのだが…と、心配してしまうのは著者の杞憂であろうか。
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