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  • 【岡嶋裕史氏インタビュー】科学的に考えることの醍醐味や面白さを伝える

  • 2009/07/07 掲載

【岡嶋裕史氏インタビュー】科学的に考えることの醍醐味や面白さを伝える

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「科学離れ」「理系離れ」などがしきりに言われるなかで、科学的に物を考えるためのヒントやとっかかりをまとめた『理系思考術』(ソフトバンク新書)を関東学院大学経済学部准教授の岡嶋裕史氏が上梓された。科学的なものの見方や考え方の大切さや面白さについて、岡嶋氏からお話をうかがった。

「理系」や「科学」は誤解されている?

――まずは、本書『理系思考術』の狙いをお教えいただけますでしょうか。

岡嶋氏■
理系/文系と一律に分離するスタイルは個人的にあまり好きではないのですが、ここでいう「理系」は、「科学的な~」とか「合理的な~」程度の意味にとっていただければと思います。

 理系、科学、と言われただけで拒否反応を示す学生さんが増えているので、「意外に面白そう」「自分にも使いこなせそう」という印象を持ってもらえればと思っています。この本だけで科学的な思考や合理的な思考に精通できるわけではありませんが、次の本に進むための踏み台にしてほしいです。

【コラム】『理系思考術』
『理系思考術』
――「理系離れ」についてのトピックがしばしば聞かれますが、実際に教壇に立たれる側から見て、実感はございますか?

岡嶋氏■
「理系」や「科学」というのが、ちょっと誤解されているイメージは持っています。たとえば、「合理的に行動したい」と考える学生さんは多いのですが、無駄な科目は取らない、最低限の出席で単位を取る、といった行動が合理的だと理解している人たちがたくさんいます。

 もちろん、省努力で単位を取る、卒業する、のが目標であれば局所的には正解なのかもしれませんが、長い目で見ると非常にもったいない気もします。何が無駄か、などを正確に判別できる人はそうそういないと思いますし、もっと試行錯誤してもいいのではないかと。

 同様の発想で、「理系」は非常に無駄がなく、スマートな学問で専門特化していて、そもそも自分には理解できないと最初から諦めている学生さんがたくさんいます。実際の理系の勉強は、やたらとあちこち突き回してやっと正解に至ったり、全力で実験した結果が結局全部無駄になったりと、非常に泥臭い要素をはらんでいます。言われるほどタコツボでもなく、広い視野が要求されるので、日常生活にも応用がききます。

 色々な「暗黙のお約束」があるので、ちょっと取っ付きにくいかもしれませんが、決して理解不能な宇宙語の世界ではなく、むしろ先人の知識の再現性という点では非常にわかりやすい分野ですので、もっと気軽に飛び込んでほしいなぁと思っています。

――本書では、ベイズ理論やゲーム理論などについて事例を通しつつ解説されていますが、そういったものの魅力について教えていただけますか。

岡嶋氏■
これは純粋に私の感覚ですけれども、よくできたドミノ倒しを見るような、胸のすく感じが好きです。「トムとジェリー」でトムがジェリーを捕まえるために作る変な仕掛けとか、今だとNHKの「ピタゴラスイッチ」で紹介される「ピタゴラそうち」のような、精緻に作られたものが、絶妙のバランスでゴールに向かって突き進んでいく様子って、とても面白いと感じます。

 理論には、物理的な実体はないけれども、理屈の筋道を辿っていくと綺麗なメカニズムでゴールに至る感覚は一緒だと思います。こうしたメカニズムは時として、理想的な箱庭の中でだけ動くもので、現実には適用できないと批判されることもありますが、ベイズやゲーム理論の場合は仕事や日常生活にも応用できる可能性が高いのが魅力です。机上でこねくり回していた理屈が、現実にぴったりはまるのは、ちょっとした体験です。

 あと、理屈自体がわからなくても、小話として面白い理論も多いです。量子力学でよく使われるシュレディンガーの猫とかよく考えたなぁと。あの例えがいいかどうかは別ですが。


科学の醍醐味を伝えていくこと

【コラム】『理系思考術』
岡嶋裕史氏
――岡嶋先生ご自身が科学の面白さや醍醐味に目覚めたきっかけは何でしょうか?

岡嶋氏■
幼稚園のときに、化学実験キットを買ってもらって、マニュアルどおりに試薬を配合すると、予想通りの化合物ができるのに感動したのが最初のきっかけだったと思います。10歳で初めてプログラミングのできるマイコンに触れたときも、衝撃を受けました。サンプルとして添えられていたアルゴリズムのどおりにプログラムを書いていくと、きちんと狙った結果が出るわけです。

 最初にある薬品を作ったり、あるプログラムを書いたりする人たちは一種の天才で、自分はそういう人にはなれないけれども、そういう人たちが残したプロセスを追っていくことで、同じ結果に至れるのがすごいと思いました。一子相伝の伝統芸などにはない科学の醍醐味だと思います。

――今後、研究を進めようと思っていらっしゃるテーマ、関心をお持ちの領域などをお教えいただけますか?

岡嶋氏■
もともとネットワークのプロトコルやサービスなどが専門なので、接続性向上のための研究を続けていきたいと考えています。「つながる」というのは特別な意味を持っていて、人と人とがつながって新しい可能性が生まれていくように、孤立していたコンピュータやサービスがつながることで、よりよい社会が生まれる可能性があります。

 コンピュータ同士や携帯同士のハードウェア的なつながりは、ここ10年で非常に改善されましたが、Web上で享受できるサービスなどはまだまだ個々に孤立している状態です。この状況を変えることに貢献できればと思っています。

 また、教育現場にいる者として、ITに興味を持つ若年層が減少している傾向は強く感じているので、入門書以前の導入書籍とでもいうべきものは、今後も書いていきたいです。導入書籍で伝えられることは限られていますし、メタファを多用した説明は詳しい人からの批判も多いですが、現実にそれを必要としている人たちがいる限りは続けたいと考えていますので。

 自分の本を読んで下さった方が、次の難易度の書籍に進んで、「あんな導入書籍をいつまでも読んでちゃダメだ」と感じる水準に達していただければ、すごく嬉しいです。


●岡嶋裕史(おかじま・ゆうし)
関東学院大学経済学部准教授。
情報セキュリティの分野に精通し、多くの著作を持つ。
著書に『iPhone 衝撃のビジネスモデル』(光文社新書)、『ジオン軍の失敗』(アフタヌーン新書)、『郵便と糸電話でわかるインターネットのしくみ』(集英社新書)など多数。
新刊『理系思考術』(ソフトバンク新書)が発売中。
サイト:岡嶋研究室
[参考]岡嶋裕史「将棋ソフトと科学の醍醐味」

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