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  • 2012/05/16 掲載

元グーグル社長 村上憲郎氏ら:スマート社会の基盤作り、世界を相手に新しい社会やビジネスを創造する

新規ビジネスを創出し、イノベーションを起こす

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東日本大震災とそれに伴う原子力発電所の事故は、エネルギー問題を改めて考え直すきかっけとなった。従来の電力システムや社会基盤、価値観が揺らぐ現在、新しい未来の構築に向けて何ができるのか。国際大学GLOCOM主催のFTM(フューチャー・テクノロジー・マネジメント)フォーラムの議長で、元グーグルジャパン社長の村上憲郎氏が提言を発表。その提言に基づいて、慶應義塾大学の高橋秀明 特任教授、NTTレゾナント 藤代裕之氏、国際大学GLOCOM主幹研究員/教授の中島洋氏らが話し合った。キーワードは「スマート社会」だ。

スマート社会作りの鍵は電力改革にあり

「日本を覆う閉鎖感を打ち破り、技術やイノベーションの在り方を根本から見直して未来を切り開く。さらには人々が幸せになる社会を構想する」

 国際大学の研究機関として20年前に設立されたGLOCOM(国際大学グローバル・コミュニケーション・センター)は、上記をテーマに掲げ、未来の日本社会の模索を開始した。2011年10月には、さらなる議論と提言のために、産学共同のFTM(フューチャー・テクノロジー・マネジメント)フォーラムを発足した。

 FTMフォーラムでは、現在2つのグループに分かれてディスカッションを行っているという。1つは、企業経営などに携わってきた団塊世代を中心とする「レッドテーブル」だ。ここでは、特に制度や技術について議論する。もう1つは、次の社会を担う次世代リーダーを中心とする「グリーンテーブル」で、企業の在り方や働き方などを議論する。

 今回取材した第1回シンポジウム「スマート社会のビジョンとテクノロジーを提言する」では、両テーブルの中間報告が行われた。本記事では、そのうち第1部のレッドテーブルによる報告を紹介したい(第2部は追って紹介する)。

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FTMフォーラム議長
村上憲郎氏
 第1部の基調報告「電力とイノベーション、雇用」は、国際大学GLOCOM主幹研究員/教授、FTMフォーラム議長、村上憲郎氏が行った。同氏は、米グーグル副社長 兼 グーグル ジャパンの代表取締役社長を経験し、2012年4月23日には関西電力の社外取締役として株主提案されたばかりだ。

 村上氏は、議論をまとめた「持続可能なスマート社会作りを急げ~電力改革をイノベーションの最重点課題に~」と題する提言の概要を紹介した。

 3.11以降、電力システムやエネルギーの問題は、日本だけでなく世界各国で議論されている。オバマ政権発足時の2009年、低炭素社会とスマートグリッド(次世代送電網)促進を打ち出した「グリーン・ニューディール」計画も、こうした取り組みの表れと村上氏は指摘する。

 「注目すべきは、スマートグリッドがIT分野と結び付けられている点だ」(村上氏)。

 情報通信技術(ICT)が、単なる業務改善や生活改善だけでなく、エネルギー問題という社会全体の大きな問題を解く重要なツールと認識されている。そのスマートグリッドを基盤に形成されるのが、スマートシティやスマートコミュニティなどと呼ばれる「スマート社会」だ。

 スマート社会を実現するには、持続可能性と豊かさを両立させる必要がある。そのためには、モノが溢れた世界をよしとし、戦後の成功体験に呪縛された中央集権的な硬直体制ではなしえないと、村上氏は言う。「インターネットを代表とする情報通信技術は、こうした閉鎖的・硬直的な構造とは違う世界を作った。さらに新エネルギー技術と融合することで、スマート社会は形成される」(村上氏)。

 まず考えなくてはならないのが、ベースとなるスマートグリッドの構築だ。それには、電力産業の構造改革が必要となる。3.11以前、日本人は極めて安定的で高品質の電力供給を享受してきた。電力は湯水のごとく使用できるのが当然で、電力会社はピーク時の電力を支えることを使命としてきた。

 しかし、震災で原子力発電所の課題が改めて浮き彫りになり、ピーク時を維持するアプローチでは持続可能性を実現できないことが判明した。とはいえ、電力の構造改革は時間がかかる。そこで、短期および中長期計画で段階的に変えていくことを村上氏は提案する。

 まず短期では、発送電の分離と電力のさらなる自由化を進め、それを下支えするスマートグリッドの構築を急ぐ。中長期では、再生可能エネルギーの実用化、高能率の蓄電装置の開発、交流から直流への転機などを進める。

 こうした取り組みがプラスのエネルギーに変換されれば、新ビジネスや雇用の創出も期待できる。「まずは電力改革から始める。それがスマート社会への突破口だ」(村上氏)。

【次ページ】世界を相手に新しい社会やビジネスを創造する
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