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  • 2015/09/08 掲載

羽生名人の言葉に学ぶマネジメント 勝ちつづけるための「他力」の極意

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マネジメントの機能である「意思決定をすること」は困難だ。それゆえにビジネスの現場においては、どれだけ万端の準備を整えても、事前に立てた計画の通りには運ばないというケースがほとんどだ。プロ将棋史上、最も成功したプレイヤーである羽生 善治名人が語る「他力」という言葉には、物事を思い通りにするための極意が隠されている。

プロジェクト進行支援家 後藤洋平

プロジェクト進行支援家 後藤洋平

予定通りに進まないプロジェクトを“前に”進めるための理論「プロジェクト工学」提唱者。HRビジネス向けSaaSのカスタマーサクセスに取り組むかたわら、オピニオン発信、ワークショップ、セミナー等の活動を精力的に行っている。大小あわせて100を超えるプロジェクトの経験を踏まえつつ、設計学、軍事学、認知科学、マネジメント理論などさまざまな学問領域を参照し、研鑽を積んでいる。自らに課しているミッションは「世界で一番わかりやすくて、実際に使えるプロジェクト推進フレームワーク」を構築すること。 1982年大阪府生まれ。2006年東京大学工学部システム創成学科卒。最新著書「予定通り進まないプロジェクトの進め方(宣伝会議)」が好評発売中。 プロフィール:https://peraichi.com/landing_pages/view/yoheigoto

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マネジメント成功のために、意思決定の仕方を身につけよ

 「マネジメント」とは、ある物事に対して、自らが意図する通りの成果を残す振る舞いをさせるために、それを「制御」しようという行いである。これはよく考えると、大きな矛盾をはらんでいるものである。

 業務の現場で日々発生する事象のほとんどは、思い通りにいかないようにできている。どれだけ万端の準備を整えても、どれだけ細心の注意を払っても、事前に立てた計画はどこかで糸がほころび、絡み合い、予定通りに運ばない。それでもなお、私たちの社会では、いかなる想定外の事象に対しても、適切な意思決定をし、期待される成果を挙げることが求められる。

 もしその物事の本質が明らかで、制御可能なものとなっているのであれば、それは「自動化」すればよいだけの話で、あえて「マネジメント」する必要はない。物事を制御したいという欲求がありながらもうまくできない。だからこそ人はマネジメントを「試みる」のである。

 マネジメントにおいて果たされる機能とはただ一つ、「意思決定をすること」である。そして、それが困難なのは「意思決定」と「実行される内容」には必ず齟齬が生じる、ということにある。

 大ヒットドラマ「踊る大捜査線」の作中で「事件は会議室で起きているのではなく、現場で起きている」という有名なセリフが登場する。この言葉が象徴するように、組織的な業務に携わったことがある人であれば誰しも、自らの組織の最高意思決定機関がうまく機能していないということを感じたことがあるのではないだろうか。

 意思決定は、現場でおきている物事が情報としてインプットされた結果、それへの反応として下される。その間には超えることのできない断然がある。タイムラグもあるし、伝達される情報の精度の問題もある。絶えず変化する環境のなかで、不完全な情報しか常に得られないなか、現場を100%正確に、必要十分に理解するということは不可能である。

 現場の中心でいくら正論を叫ぼうとも、「意思決定の内容」と「実行の結果」の間にある齟齬は、この世に不確定要素があるかぎり、原理的に、避けようがないのである。

将棋において、最も洗練された意思決定の方法がシミュレートされる

 しばしば確からしく語られるのは、「Googleはこういう方法を実践している」「TOYOTAの発展の歴史を紐解くと、このような意思決定を下してきた」といった、ケース・スタディである。しかしケース・スタディの限界とは、「どこからどこまでが偶然の産物なのか、どの要素が一般性のある話なのか」という問題である。同じ基準で比較対照できるようなサンプルは存在しないために、一定の方法論を明確に打ち立てることは難しい。

 どのような方法論が優れているのかということを実証するための擬似的な社会として、例えばプロスポーツ界がしばしば取り上げられる。統一したルールとレギュレーションのもと、同一の目的のために複数のプレイヤーが競い合うからこそ、優れた方法論を実践したものが最良の結果を残す、というわけである。

 なかでも筆者は、意思決定の方法を実証するための擬似的な社会として、囲碁や将棋といったマインドスポーツこそが、もっとも純粋な「意思決定の方法論」の実験場だと考えている。なぜならば、これらのゲームには不確定要素が存在しないからである。

 囲碁や将棋等、完全情報ゲームと呼ばれるゲームにおいては、「ここで歩を動かす」と意思決定をすれば、必ずそれが実行される。敵の味方の情報についても寸分たがわぬ正確な情報が提供されている。完全情報ゲームのプレイヤーとは、意思決定者であり、かつ同時に実行者であって、「意思決定」と「実行される内容」との境目が存在しないのである。

【次ページ】羽生名人が語る「他力」の使い方

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