- 2023/03/20 掲載
アングル:日銀企画担当理事に「ミスターYCC」、まずは欧米の金融不安見極め
[東京 20日 ロイター] - 日銀は20日、金融政策の企画立案を担ってきた内田真一理事が副総裁に昇格したことに伴い、清水誠一理事を企画局担当にすると発表した。2020年7月まで金融市場局長を務め、イールドカーブ・コントロール(YCC)の実務に精通する清水氏は、海外動向にも詳しいとされる。まずは足元の欧米の金融不安を見極めつつ、その影響を受ける金融市場への対応やYCC見直しの是非など、諸課題に取り組んでいくことになる。
<YCCの実務に精通>
清水氏は1988年に日銀に入行。加藤毅理事(政策委員会室などを担当)、高口博英理事(金融機構局などを担当)とは同期入行だ。
清水氏は2016年6月、金融市場局長に就任。同年9月に日銀がイールドカーブ・コントロールを導入すると、市場調節の実務を担ってきた。市場では「ミスターYCC」(大和証券の岩下真理・チーフマーケットエコノミスト)との呼び声も上がる。
20年7月に企画局長に就くと、同年末から21年3月にかけて金融政策の「点検」に取り組んだ。この政策点検は金融市場で肥大化した日銀の存在感を抑え、金融緩和の持続性を高めるのが狙いだった。政策点検の結果、日銀は年間約6兆円としていた上場投資信託(ETF)の「定額」買い入れをなくし、12兆円を上限に金融市場が大きく変動する時には多額のETFを買う方針に変更した。
債券市場関連では、長期金利の許容変動幅を上下0.25%程度と明確化。さらに金利の大幅な上昇を抑制する目的で「連続指し値オペ」の導入を決めた。
しかし、昨年は海外中銀が急速な利上げを実施して海外の金利が上昇。日本にも波及した。当初、黒田東彦総裁が「ラストリゾート」と位置付けていた連続指し値オペも、昨年3月末に初めて実施すると4月の決定会合以降は原則、毎営業日実施となった。昨年12月には、市場が織り込まない中で長期金利の変動幅の拡大を決定した。岩下氏は「YCCの限界が近づいてくる中で、副作用の軽減策を清水理事が行うというのは一番妥当な人選ではないか」と話す。
<雨宮前副総裁が手腕を評価>
清水氏は金融市場局長として、20年に新型コロナウイルス感染症が世界的に流行し始めて金融市場が混乱に陥ったときの市場対応で行内の評価を高めた。
同年3月2日、黒田総裁が談話で、金融市場の安定確保に向けて万全を期す方針を示すと、ドル資金供給や資産買い入れを積極化。ETFの買い入れ額を従来の1日当たり703億円から1002億円に増やし、6月末までの間に3兆7000億円強買い入れた。在宅勤務が債券トレーダーにまで広がり「買い手不在」の様相が強まった国債市場では、3月に7兆6807億円、4月に6兆3471億円買い入れて市場機能の維持に尽力した。
清水氏はコロナ危機当時、特に米連邦準備理事会の動向を正確に把握していたもようだ。複数の関係者によると、雨宮正佳前副総裁は当時、清水氏の手腕を高く評価し、その後の企画局長就任につながったとみられている。
20日には内田真一、氷見野良三副総裁が就任し、理事の陣容が発表されるなど、日銀は新体制を事実上スタートさせた。米中堅銀行の破たんや、UBSによるクレディ・スイス買収などで欧米の金融不安が高まり、日本市場も神経質な値動きになっている。日銀を含む主要6中銀は20日、ドル資金供給の拡充を打ち出した。清水氏は企画局と金融市場局を所管する。市場混乱時に機動的な対応に出るかが焦点になる。
4月には植田和男氏が日銀総裁に就任する。大和証券の岩下氏は、今回の欧米の金融不安が「市場における4―6月期の日銀の政策修正期待を後退させた」とみている。
東短リサーチの加藤出チーフエコノミストは、欧米の金融危機が「どれだけ拡大するのかまずは見極める必要がある」と指摘。仮に「連鎖が限定的というのが見えてくるのであれば、YCC見直しに着手してくるだろう」と話す。
(和田崇彦 編集:石田仁志)
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