• 2023/03/28 掲載

焦点:揺らぐ信用秩序、上乗せ金利求める声も クレディSが残した禍根

ロイター

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山口貴也 浦中美穂

[東京 28日 ロイター] - スイス金融大手クレディ・スイスをUBSが買収することで金融危機を招くことは回避した。ただ、AT1債と呼ばれる劣後債を無価値とする買収処理は信用秩序に揺さぶりをかけ、市場の不安心理は今後数カ月は収まりそうにない。類似の債券は日本の金融機関も発行しており、リスクを再評価する動きが広がれば上乗せ金利を求められかねない情勢だ。

<IPO中止も覚悟>

クレディS買収に先立つ今月中旬、新規株式公開(IPO)の価格決定を20日に控えた住信SBIネット銀行は価格設定に揺れていた。

当初想定していたIPO価格は1株1200円から1400円の間だった。ただ、米中堅銀行2行の経営破綻をきっかけにクレディSの経営危機が表面化。「ローンチ(株式の上場承認)時の歓迎ムードが一変した」と、事情に詳しい関係者1人は振り返る。

結局はUBSによる買収合意で悲観論が後退し、価格を1株1200円とすることを決めた。「仮条件の下限でもプライシングできないかもしれない」(前出の関係者)との議論もあっただけに、レンジ内に収まったことに安どした経緯を明かす。

同日20日のローンチを予定していた楽天銀行は決定を1営業日遅らせ、22日の上場承認にこぎ着けた。

別の関係者2人によると、市場環境を見極める必要があるとの判断からだという。「水面下の調整では(クレディSの)買収額に開きがあり、まとまらなければ週明け20日の市場が荒れるのは容易に想像がついた。住信SBIの価格設定を見極めたい思いもあっただろう」と、別の金融関係者は指摘する。

<煽られた不安心理>

世界の金融監督当局は2008年のリーマン危機後、グローバルに金融システムの影響が及ぶ銀行に対して財務健全性の強化を求め、クレディSもその1つだった。それだけに、日本の金融当局者の間でも「(買収交渉がまとまって)正直、安どした」(金融庁幹部)との受け止めが多い。

「各国中銀による資金供給拡充の動きも早かった。市場の動揺も次第に収まっていくだろう」と、別の政府関係者は語る。

とはいえ買収合意と引き換えにAT1債の無価値化という損失吸収がなされ、かえって投資家の不安を煽った面も否めない。欧州市場ではAT1調達が多い銀行が狙われ株価が急落、今なお一進一退の値動きが続いている。

通常の破綻処理では、株で損失を吸収したうえでAT1債での負担を求めるのが一般的だが、株が優先されるように映ったスイスの手法をきっかけに不信感が募り、「投資家の間で(クレディSと)同様の条項が投資商品に紛れ込んでいないか、再確認する動きが広がっている」と、市場関係者の1人は言う。

<欧州の動向見極め>

AT1債は14年に「バーゼル3」が導入されて以降、自己資本に厚みをもたせる手段として活用されてきた。高い利回りが人気を集め、欧州銀を中心に発行残高は約2540億ドル(約33兆円)に上るとされる。

今後注目されているのが6月に予定されるイタリア銀行大手ウニクレディトのファーストコール(期限前償還)で、これに先立つ当局への事前通知までは「不安心理がくすぶり続けそうだ」と別の関係者は言う。

当局への通知は数週間前に行うのが一般的で、「セル・イン・メイ」と呼ばれる5月の株売りと重なる。欧州銀がどう対処するかで再び市場が不安定化する懸念も拭えない。

AT1債は、欧米の金融機関にとどまらず、邦銀の資本調達手段にもなっている。スイス以外では、日本も含め、最終的に元本が返ってくる商品設計とするケースが多いが、市場では「リスクが再評価され、上乗せ金利を求められることもあり得る」(関係者)との声が出ている。

(山口貴也、浦中美穂 編集:橋本浩)

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