- 2023/04/21 掲載
アングル:トヨタとテスラの巨大工場、命運握る米排ガス規制
同州サンアントニオにあるトヨタ自動車の巨大工場では今、ガソリンで走るピックアップトラック「タンドラ」とハイブリッドのスポーツ多目的車(SUV)「セコイア」が大量の注文を抱え、生産を急いでいる最中だ。
そこから2時間足らず北上した同州オースティンにあるテスラの「ギガファクトリー」でも、EVのSUV「モデルY」の生産が需要に追い付かない状態。タンドラの対抗車と目される「サイバートラック」の生産開始も急がれている。
バイデン政権の排ガス削減案は、米国の乗用車とトラックを合わせた新車販売に占めるEVの割合を、現在の7%から2032年までに67%に拡大することを目指すもの。EVが市場を支配する未来に賭けてきたテスラ、ゼネラル・モーターズ(GM)、フォード・モーターにとっては強力な追い風となりそうだ。
内燃機関車が排出するガスを大幅に削減するこの政策は、タンドラのようなトラックの生産コストを増加させる。一方で、製造やEV充電インフラに対する数十億ドル(数千億円)規模の補助により、EVの生産コストは下がり、消費者の手に届きやすくなるはずだ。
米国で販売台数2位のトヨタは、環境団体から批判を受けながらもバイデン政権のEV目標についての疑念を公に口にしている。
トヨタは政権の提案について声明を出し、「野心的な目標であり、自動車業界が制御できない要因に大きく依存する」と指摘。「自動車の基準は、消費者がクリーン車両・燃料の多様な選択肢にアクセスできるよう、公平な競争環境を推進するものであるべきだ」と訴えた。
<トヨタの成功体験>
テスラは、世界最大の自動車メーカーというトヨタの地位を脅かそうとしている。米政府のEVシフト加速路線は、その脅威を増幅させるものだ。
トヨタがGMから世界首位の座を奪えたのは、低コストで高品質の自動車を生産する「リーン」生産方式が勝因の1つだった。たゆまず改善を続ける生産方式は、サンアントニオ工場でも働き方の中核を成している。
同工場は2006年にトラック生産を開始して以来、幾多の困難を乗り越えてきた。過去10年間は、消費者のトラック、SUV志向が追い風となって堅調に推移。トヨタはタンドラとセコイアの2022年モデルを生産するため、約4億ドルを投じて同工場の組み立てラインを更新した。
ところが米政府の新たな排ガス規制案により、タンドラやセコイアのような内燃機関車やハイブリッド車は市場から追い払われる恐れが出てきた。
<テスラの脅威>
トヨタにとってもう1つの脅威がテスラのオースティン工場だ。同社のイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)は、トヨタが米市場に進出した1958年以来成し遂げてきた事に逐一挑戦を仕掛けている。
テスラのバッテリー式EVは炭素燃料を用いず、トヨタのハイブリッド車「プリウス」のようなガソリンと電気を組み合わせた技術も使わない。
テスラはトヨタが得意とするリーン生産方式にも闘いを挑んでいる。「モデルY」の生産では、大きな車体を一体成形する「メガキャスティング」を採用。これにより、トヨタなどが使っている多数の金属部品に加え、それらを溶接する高価な機械が不要になる。
モデルYはバッテリーパック上部が自動車のフロアを形成する構造になっているため、効率性が14%高まると、ケアソフト・グローバル・テクノロジーズのテリー・ウォイチョウスキー社長は説明。「テスラのアプローチは極めて革新的だ」と述べた。
テスラ幹部らは3月の投資家説明会で、生産コストを半減させる新たな組み立て方式に取り組んでいると明かした。
米政府の排ガス規制案を巡っては、今後数カ月にわたって規制当局、業界幹部、環境活動団体の間で交渉が行われる。2024年の米大統領選挙戦が始まる中で規則の詳細を巡る駆け引きが展開されることになる。
一部の共和党議員は既に提案を攻撃。上院エネルギー・天然資源委員会の共和党トップ、ジョン・バラッソ議員は「『何から何まで電気化』では解決策にならない」と述べ、「選択肢は減り、価格は上がる未来への道だ」と批判した。
トヨタのサンアントニオ工場で働く労働者の将来がどうなるかは、同社がこの工場で生産できるEVをいかに迅速に開発できるかどうか次第でもあるかもしれない。
工場のマネジャー、ケビン・ヴォールケル氏は「われわれは道を切り開いていく。常に難局を切り抜けていく」と自信を示した。
(Norihiko Shirouzu記者、 Joseph White記者)
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