- 2023/05/01 掲載
アングル:快走、クラシックカー市場 価格高騰でファンドも参入
しかしモデナ氏は「今なら、妻が選ばれるかどうか確信は持てない」と話す。
実際、時代は変わったのだ。フェラーリのこのモデルは2018年に4800万ドル(約64億円、現在の為替レート換算)と、自動車オークションとしては当時の最高額で落札された。昨年はメルセデスベンツの「300SLRウーレンハウト・クーペ」が1億3500万ユーロ(1億4900万ドル)で落札され、史上最高額を更新した。
クラシックカー市場は世界的にオルタナティブ投資の波に巻き込まれており、こうした超高額取引はその先駆け。英不動産大手ナイト・フランクの2023年のリポートによると、クラシックカーは過去10年間で価格が185%上がった。上昇率はワインや腕時計、美術品を上回り、希少ウイスキーに次いで2位だ。
クラシックカー市場は株式や債券といった主要な金融資産との相関性が低く、高いリターンが期待できる。そのためすそ野が、コレクターという比較的小さな集団を超えて投資家にも広がっている。
伊アジムートの最高経営者(CEO)兼資産運用グローバルヘッド、ジョルジオ・メッダ氏はずっと以前からこの市場に注目してきた。「過去30年間の実績から判断して、クラシックカーはわれわれの顧客のポートフォリオに組み入れたい金融資産クラスになった」という。
同社は今年、クラシックカーに投資する世界初の「エバーグリーンファンド」(運用期間に期限を設けず、利益を再投資するなどして投資を継続するファンド)を立ち上げる。投資対象の車は価格を100万ユーロ以上に設定。フェラーリやマセラティのディーラーであるロッソコルサのトップからアドバイスを受け、ユニークな由来を持つクラシックカーに投資する方針だ。
スイスの資産運用会社へティカ・キャピタルも2021年に、クラシックカーに投資する5000万ユーロのクローズドエンド型ファンドを立ち上げた。これまでに12台を購入、5年目までに保有台数を30─35台に増やす計画。その後の2年間で車を売却し、7年間で9─15%のリターンを狙う。
もっともこうした計画はかなり大胆ではある。
ナイト・フランクにデータを提供したクラシックカー調査会社HAGIの創設者、ディートリッヒ・ハトラパ氏は「これまでに100本余りのファンドの設立計画を目にしてきたが、投資家のすそ野と車のポートフォリオの両面で分散化を成し遂げたファンドはなかった」と言う。
この市場は資金面で思い切ったことはできない投資家向きでもない。
アジムートとヘクティカのファンドはいずれも初期投資の最低額が12万5000ユーロ。「1000―2000ユーロの投資を希望する人から電話がたくさんかかってくるが、断らざるを得ない」と、ヘクティカのクラシック・ファンドを運営するウォルター・パンゼリ氏は話す。
しかもクラシック―カーはわずかな傷やへこみ、部品交換で資金的に大きな打撃を受ける場合もある。例えば希少なビンテージカーはバンパーの交換だけに1万5000ドルかかることもあるとモデナ氏は言う。
<かさむコスト>
クラシックカーを集めているフロリアン・ツィマーマン氏は、車の収集には保管や保険を含めて多大なコストがかかり、それが簡単に年間でポートフォリオの評価総額の5-6%に達することもあると解説。「集めた全ての車を現役の状態に保つためにふさわしいメカニックを見つけるのがどんどん難しくなっている。全車で走行可能な状態を維持するには相当な出費が必要だ」と付け加えた。
クラシックカーのポートフォリオを運用するファンドは、自動車メーカーのクラシックカー部門にとっては「金づる」になっている。こうした部門は修理や部品を提供するだけでなく、クラシックカーのイベントなどの際に車の鑑定も行う。メルセデスベンツのクラシックカー部門の関係者の話では、鑑定書の発行だけで2万ユーロほどかかる。
それでもクラシックカー市場は拡大している。参入する富裕層が増えているためで、クラシックカーの価値は昨年25%上昇。ナイト・フランクによるとこれは過去9年間で最大の上昇率で、美術品の29%に次いで高い。
クラシックカー保険会社ハガーティーの推計では、市場規模はオークションと個人売買を合わせて世界全体で年間約800億ドルに達する。オークションは最大市場が北米で、昨年の落札総額は34億ドル。2007年には7億7400万ドルだった。近年は中東、インド、中国で買い手が増えているという。
世界的に脱エンジン車競争が進んだことで、消えゆく時代の遺物であるクラシックカーへの関心は高まる一方だとの声も聞かれる。
マセラティのビンテージカー部門、マセラティ・クラシケの責任者であるクリスティアーノ・ボルゾーニ氏は「クラシックカーは電動化が追い風になっている。いずれ熱狂的な信者を獲得する」と話した。
(Valentina Za記者、Giulio Piovaccari記者)
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