- 2023/05/03 掲載
焦点:中国市場で落日の日本勢、EV出遅れ ツケ大きく復活に難路
日本勢は巻き返しを図るが、EVの普及スピードを読み誤ったツケは大きく、収益力のあるEV開発で、かつての地位を取り戻せるか見通せない。
S&Pグローバル・モビリティの西本正敏プリンシパルリサーチアナリストは、世界第2位の自動車市場である米国でも政府がEVの普及を進めようとしており、日本勢は「米国でも中国と同じように苦戦を強いられる可能性がある」とみている。世界2大自動車市場でシェアを失うことは日本勢にとって「非常にリスクだ」と指摘する。
ロイターが分析した各社発表と業界団体のデータによると、日本勢の今年1─3月の中国の新車販売台数は前年同期比32%減った。トヨタ自動車(高級車ブランド「レクサス」を含む)が14.5%減だったほか、日産自動車が約45%減、ホンダが38%減と大きく落とした。マツダ(約66%減)と三菱自(約58%減)は半分以下になった。
デンソーの松井靖経営役員は4月27日の決算会見で、取引先の日本車メーカーの中国での販売状況は「足元の計画に対して落ちている。計画の6割くらいのところもある。新車の在庫が多くなっている」と説明。別の部品メーカー幹部も「トヨタ、ホンダ、日産全てが計画割れで、問題になっている」と話した。
三菱自は昨年12月にクロスオーバーSUV(スポーツ多目的車)「アウトランダー」のガソリン車を中国で生産して投入したが、EV人気のあおりでガソリン車が振るわず、3月から5月まで同車の生産停止を決定。これを受けて、23年3月期の連結決算で特別損失105億円を計上する。
日本車はこれまで、ガソリン車の燃費や機能面での信頼性、ハイブリッド車(HV)の優位性などから人気を博してきた。だが、中国の乗用車市場は23年に新車販売の3台に1台がEVになるともいわれるほどEVシフトが進んでおり、EVやプラグインハイブリッド車(PHV)を含む新エネルギー車(NEV)中心の中国自動車大手BYD、米EV専業テスラに日本勢は大きく水をあけられている。 日本車の存在感は実際、徐々に落ち始めている。中国での自動車販売台数全体に占める日本の自動車メーカーのシェアは、20年の24%から、23年1─3月には18.5%に低下した。日産の「シルフィ」は過去3年間、中国で最も売れていたセダンだったが、昨年末はBYDのPHV「宋」に抜かれて2位に転落した。
日産はシルフィに独自技術「e―POWER」を搭載したHVを投入。エンジンを発電のみに使い、モーターで駆動するため、広州市ではNEVに分類されており、今後より多くの都市でNEVの対象になるよう取り組むと説明。「日産のブランド変革において重要な役割を担う」(広報担当者)としている。
調査会社マークラインズによると、今年1─3月の新車販売のモデル別トップ10では、首位が「モデルY」、4位が「モデル3」とテスラ車。2位、3位、5位はBYDの車だった。日本勢は9位に日産「シルフィ」、10位にホンダ「アコード」がランクインしたのみだ。 中国自動車工業会(CAAM)によると、1─3月累計の販売台数は乗用車全体で7.3%減ったのに対し、NEVは26%伸び、全体の約26%を占めた。
<価格競争でも敗者に>
中国では今年に入り、EVの値引き合戦が繰り広げられている。テスラが1月に値下げしたのを機に、中国勢、欧州勢、日本勢が追随。テスラは需要拡大を受けて値上げにも転じているが、それでも1月の水準を下回っている。
中国・上海を拠点とするコンサルタント会社オートモビリティのビル・ルッソCEO(最高経営責任者)は「価格競争の最大の敗者は今のところ日本勢だ」と指摘。「EVがより手頃になればなるほど、外国車ブランドの購買層にとってEVはより魅力的になる」とし、日本勢にとって「不吉な前兆がみられる」と語った。
S&Pグローバル・モビリティの西本氏は、特に中国の若年層は「ハードウエアの品質や耐久性ではなく、エンタテインメントなどのソフトウエアを重視してEVを購入している」といい、日本勢の中国でのシェア回復には「中国の顧客ニーズにあったEVの開発・投入が非常に重要だ」と話す。
トヨタの佐藤恒治社長は4月21日の合同取材会で、価格の問題は「普及を考える時には大事なファクター(要因)だが、まず今やらなければいけないのはEVとしての基本性能をしっかりつくり込み、その上で特に知能化に対して付加価値を実現していくこと」と述べた。
EVの出遅れを指摘する声は「『トヨタもっとがんばれ』という声だと受け止めている」と認識。販売台数では他社に遅れているが、二酸化炭素(CO2)削減の点では「むしろ先を走っている」とし、「しっかり中国市場に向き合いEVを加速していきたい」と語った。
ホンダの三部敏宏社長も4月26日の合同取材会で、ソフトウエアや自動運転などの分野で「中国勢は相当、先を行っている」と認めた。「このままでいいとは考えていない。反撃する」と述べた。詳細はまだ話せないとしつつも、ホンダもソフトウエアなどの分野で「十分戦える」として「中国勢とは違う攻め口」で必ず形勢を逆転させるとしている。
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