- 2023/05/08 掲載
アングル:米株式市場に広がるスタグフレーション懸念
1970年代に米国を苦しめたスタグフレーションは、株式と債券の双方の魅力を低下させるため、投資家にとってリターンを確保する選択肢が狭まってしまう。
まだ現実化する確率は低いとはいえ、投資家の頭の中で存在感が大きくなってきているのは確かだ。背景には、昨年の物価高騰で米連邦準備理事会(FRB)が積極的な利上げを迫られ、それが景気後退(リセッション)をもたらすとの見方が多いという事情がある。また一部では、最近の銀行セクターの混乱が実体経済への与信能力に打撃を与えてさらなる成長阻害要因になり、FRBはインフレを抑え込めないうちに利下げせざるを得なくなるとの観測も出ている。
バンク・オブ・アメリカ・リサーチの4月機関投資家調査では、来年のマクロ経済を巡る構図の一角をスタグフレーションが占めると予想する向きが全体の86%に達した。
こうした中で注目されるのは、10日に発表される4月の米消費者物価指数(CPI)。これまでのFRBの利上げが物価上昇鈍化につながっているのかどうかがより明確になるためで、強い数字が出れば年初来で8%近くとなっているS&P総合500種の上昇が圧迫されかねない。
フェデレーテッド・ハーミーズのチーフ株式市場ストラテジスト、フィル・オーランド氏は「スタグフレーションは高まりつつある懸念の一つだ。物価上昇率はFRBの想定よりずっと高く、極めてゆっくりとしたペースでしか減速していない。その半面、経済(成長)は既に今年の最高点を通過してしまったわれわれは考えている」と述べた。
5日に発表された4月の平均時給は前年比4.4%と、FRBが目標とする2%の物価上昇率に見合う伸びという観点ではあまりに高過ぎる。新規雇用は加速し、失業率は53年ぶりの低さとなった。
金利先物市場は依然として年内の利下げ開始を織り込んでいるが、FRBは3日に政策金利をさらに25ベーシスポイント(bp)引き上げると決定した上で、年内はこの水準を維持する方針を堅持している。
こうした中でインタラクティブ・ブローカーズのシニアエコノミスト、ホセ・トーレス氏は、米経済が年内にリセッションへ突入するとみている。またコモディティー価格上昇や、サプライチェーン(供給網)のローカル化などを考慮に入れると、成長が下振れても物価が高止まりする公算が大きいという。
今後インフレが株価に重圧を与える局面で、リターンが相対的に高まると期待される公益などの高配当銘柄により強気な姿勢のトーレス氏は「FRBは過度の金融緩和を長く続け過ぎる間違いを犯した。米国が2%の物価上昇率に戻るまでの期間は市場が予想するよりも長くなるだろう」と主張した。
過去を振り返れば、スタグフレーションが株価の足を引っ張ってきたのは間違いない。ゴールドマン・サックスの分析に基づくと、これまでの60年余りの四半期ごとのS&P総合500種の騰落率の中央値はプラス2.5%だが、スタグフレーションに見舞われていた四半期の中央値はマイナス2.1%だった。
LPLファイナンシャルのチーフ・グローバル・ストラテジスト、クインシー・クロスビー氏は「私には金(相場)がスタグフレーションの気配を発しているように見える」と語り、金の購入を続けている。インフレのヘッジや不確実性が高い場面での逃避先として人気の高い金は今年、地政学的な不安や米債務上限問題を受けて過去最高値近辺まで値上がりした。
クロスビー氏は、経済の混乱時により底堅い事業運営が見込める生活必需品セクターなどの銘柄の買い増しも進めている。
(David Randall記者)
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