- 2023/05/08 掲載
焦点:米銀買収「うまみ」待つ支援行、政府介入で悪循環
1日に破綻したファースト・リパブリック銀の事例では、FDICが入札行の中から金融最大手JPモルガン・チェースを買い手に選んだ。
ファースト・リパブリックは何週間か前から民間セクターの買い手探しに奔走してきたが、結局FDICが接収。JPモルガンはFDICに106億ドルを支払うとともに、住宅ローン債権と商業ローン債権について政府と損失分担の合意を結んだ。FDICはまた、JPモルガンに5年間にわたって未公開の固定金利で500億ドルの資金を提供する。
MRVアソシエーツの金融リスクコンサルタント、メイラ・フォドリゲス・バラダレス氏は「ファースト・リパブリックの出来事を受け、銀行はFDICが接収するまで他の銀行を買いたがらなくなった」と指摘。「株価が下がるので買収価格が安くなるうえ、M&A(合併・買収)交渉に付きものの、延々と続きかねない問題も避けられる」と説明した。
今回の買収により、米銀行業界では一握りの大手機関への集中が加速し、競争が妨げられるとともに、巨大銀行が破綻した場合のリスクが大きくなることへの不安も広がっている。
3月に経営破綻したSVBも、ファースト・シチズンズ・バンクシェアーズがFDICの助けを得て買収。銀行が資金を拠出し政府が運営するFDICの基金が約200億ドル使われた。
シグネチャー銀行を買収したニューヨーク・コミュニティー・バンコープも買収する事業を選別し、暗号資産(仮想通貨)ポートフォリオなどのいらない資産は買わず、FDICの負担は25億ドルに上った。
「潜在的な買い手にとっては、公的管理下に置かれてFDICの支援が受けられるようになるのを待つ動機ができた」とフィッチ・レーティングスの北米銀行責任者、クリストファー・ウルフ氏は語る。
これに対してFDIC幹部らは、買収標的行の価値がさらに悪化するのを看過すれば、買収は失敗に終わるリスクがあるとくぎを刺している。
FDICは、最近の銀行買収でメガバンクが優遇されているという説も否定。SVBとシグネチャーについても大手銀は入札できたが、「グローバルなシステム上重要な銀行(G─SIB)」によって買収されたのはファースト・リパブリックだけだったと説明している。
FDICは公的管理下に置かれた銀行への入札手続きで、「最低コスト」テストを実施する必要がある。これにより、預金保険基金の負担を最小限に抑える買収提案が受け付けられる仕組みになっている。
<好条件>
金利上昇とリセッション(景気後退)懸念を背景に、米銀のM&Aはこのところ低調だった。レイモンド・ジェームズのアナリストチームは4月3日のノートで、第1・四半期の銀行M&Aは同期として20数年ぶりの低水準だったと説明している。特に地銀は株価の変動が激しいため、買収合意を結ぶのが困難になっている。
最近3行が公的管理下に置かれた事例では、当局が買い手側のこうした負担を軽減することができた。しかも、破綻行のポートフォリオ内にある不人気資産の潜在的損失を補うため、当局が今後も買い手に優遇条件を提供してくれるとの期待も生まれた。
加えて、金融最大手JPモルガンによる買収を許したことで、「政府は巨大行がさらに膨張するのを阻止するはずだ」という長年の見方が覆されたとバンカーやアナリストは言う。
折しも預金者は、破綻を恐れて中小銀行から大手銀行へと資金を移している。
2008年の世界金融危機以来、「大きすぎてつぶせない」と言われる巨大行は一段と巨大化。JPモルガンの資産は07年末の約1兆6000億ドルから今年3月末には3兆7000億ドルに膨らんだ。これに次ぐバンク・オブ・アメリカの3月末の資産規模も3兆2000億ドルと、07年の1兆7000億ドルを大きく上回っている。
FDICによる公的管理を通じて買収することのもう一つのメリットは、長期間かけて当局から買収承認を取り付ける手続きを省けることだ。
市場参加者は、規制当局が銀行の合従連衡に寛容になり、買収承認を加速させるかどうかを注視していると、監査法人EYのグローバル銀行資本市場慣行責任者ジャン・ベレンズ氏は語る。
ベレンズ氏は、地銀の混乱は「まだ終わっていない」とし、「投資家は、これ以上予想外の出来事や試練が訪れないという確信を得たがっている」と述べた。
(Saeed Azhar記者、David French記者、Tatiana Bautzer記者)
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