- 2023/05/08 掲載
アングル:中国人の欧州ブランド消費、主役は団体客から富裕層に
ただ、今年は1月の国境再開後も欧州便の運航数が限定されているため、欧州の高級ブランド店に中国人旅行者が大挙押し寄せるという光景が見られるのはもっと先になりそうだ。
こうした中国人旅行者の集団は、高級ブランドメーカー各社にとって、以前と比べれば収益面での重要性が低下している。
一方で、ブランド各社や投資家は、新型コロナウイルスのパンデミックを経て中国人の国内外における消費行動が大きく変化し、足元の消費回復の実勢を把握するのに苦戦しているという現実もある。
海外でのブランド品購入という点で、欧州への中国人旅行者の「絶対的人数」よりも「顧客がどのようなタイプなのか」を考えることが大事になっている、と業界幹部やアナリストはみている。
まず、客観的な数字として、中国から欧州への航空運賃はパンデミック前より80%も高くなっている(旅行データ会社フォワードキーズ調べ)。その一方、今年の労働節連休中の中国から欧州への旅行者数は2019年比で64%も少なくなった。
「ルイ・ヴィトン」などを手がけるLVMHのマネジングディレクター、アントニオ・ベローニ氏はインタビューで、欧州に戻ってきている中国人の大半は、ビジネス旅行者か富裕層だとの見方を示した。
アジリティ・リサーチ・アンド・ストラテジーのマネジングディレクター、アムリタ・バンタ氏も、パリやミラノなどを訪れる中国人の1人当たり消費額は増加傾向にあり、彼らは、航空運賃の変化をそれほど気にせず、銀行口座に多くの預金残高があると証明して、ビザを確実に取得できそうな人々だと指摘した。
UBSは付加価値税の払い戻しサービス会社プラネットのデータを引用し、今年3月に欧州で中国人旅行者が行った決済額の平均は19年を28%上回ったと明らかにしている。
そうした中国人富裕層の恩恵を最も受けたのは、LVMHや「カルティエ」のリシュモン、「バーキン」のバッグで知られるエルメスだったという。
LVMHのベローニ氏は、パンデミック後の旅行者の変化を踏まえると、中国人のうち団体客が戻ってくるのは、最後になる公算が大きいとみている。
このためブランド各社は、購買力が比較的大きい客層を重視。例えば、「グッチ」を展開するケリングは、最高で300万ドルの価格を設定した商品を提供する超富裕層向けの新たなサロンを立ち上げた。
エグザンBNPパリバが労働節連休直前に発表した調査では、パリとミラノの業界関係者から中国人消費者の支出は今やフランス人と米国人に次ぐ3番目に大きな金額で、観光エリアの幾つかの店舗では2番目のケースもあると報告された。
<難しい比較基準>
LVMHとエルメスは、中国人の消費回復を追い風として第1・四半期の世界全体の売上高がそれぞれ17%と23%増加した。
ただ、前年と比較する場合、昨年は中国本土の業績がロックダウン(都市封鎖)の影響などで非常に低調だったことも考慮しなければならない。
コンサルティング会社ローランド・バーガーの上海駐在プリンシパル、ジョナサン・ヤン氏は「今年は各企業のパフォーマンスがセクター全体と比べてどうなのかを見ることが大事になる。2桁の伸び自体に大きな意味はない」と述べた。
別のコンサルティング会社オリバー・ワイマンの小売り・消費財パートナー、イムケ・ウーターズ氏は、昨年は奇妙なほど低調だったが、2021年は逆に異例の成長を見せたと話す。それは2020年のパンデミック発生後、中国人のブランド消費の国内回帰が大規模に起きたからだ、と指摘する。
だからと言って中国人のブランド品支出の最大7割が海外だった2019年と比べるのも適切ではない。そうした比率に戻る確率は、より長期的にみても小さいとアナリストは想定しているからだ。
ウーターズ氏は「高級ブランド品(消費)に関しては、実際に何を比較の基準とみなすかが難しい」と明かした。
(Casey Hall記者、Mimosa Spencer記者)
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