- 2023/05/16 掲載
情報BOX:米国債デフォルトに備えるウォール街の現状
金融業界は以前(直近では2021年9月)にもこうした危機への対応を準備してきた。しかし、今回は上限引き上げへの合意期限までの期間が短いため、バンカーらの切迫感につながっている、と業界幹部の1人は明かした。
シティグループのジェーン・フレーザー最高経営責任者(CEO)は、債務上限を巡る現在の議論はこれまでよりも「不安の度合いが大きい」と発言。JPモルガン・チェースのジェイミー・ダイモンCEOは、同行はその影響を検討する会議を毎週開いていると述べた。
◎デフォルト発生ならどうなる
米国債は世界中の金融システムを支えているので、デフォルトが生み出すダメージを完全に把握するのは難しい。だが、複数の業界幹部が想定しているのは、株式や債券、その他さまざまな市場が大きく不安定化する事態だ。
流通市場においては、米国債は相当取引しにくくなるだろう。
米財務省の債務オペレーションに助言している何人かのウォール街幹部は、米国債市場が機能不全になった場合、すぐにデリバティブや住宅ローン、コモディティーなどに影響が波及すると警告した。これらの売買や借り入れに担保として広く利用される米国債の価値に投資家が疑念を抱くようになるからだ。
金融機関は取引相手に対して、米政府の未払いで影響を受ける国債の担保を別の国債と差し替えるよう求める可能性が出てくる。
債務上限を突破してしまう期間が短かったとしても、金利は急上昇し、株価は急落するとともに、ローン書類やレバレッジ取引約款における財務制限条項違反にもつながりかねない。
ムーディーズ・アナリティクスによると、短期の資金調達市場の機能がストップしてしまう公算も大きい。
◎金融機関の具体的対応
銀行やブローカー、トレーディング・プラットフォームは米国債市場の混乱や、より全般的なボラティリティー拡大への対策を進めている。
具体的には財務省証券類の支払いがどのように扱われるか、重要な調達市場がどう反応するかを見極め、大規模な売買を処理できるだけの技術と人員、資金を確保し、顧客との契約への影響を点検するといった作業だ。
大口の債券投資家はこれまで、資産価格の乱高下を切り抜け、最悪のタイミングで売りを迫られるのを避けるには、高水準の流動性を維持することが大事だと訴えてきている。
債券取引プラットフォームを運営するトレードウェブは、顧客や業界団体、その他市場参加者と緊急対応計画を巡る協議を続けていると明らかにした。
◎考えられるシナリオ
米国証券業金融市場協会(SIFMA)は、ニューヨーク連銀、証券取引清算機関(FICC)、清算担当銀行、米国債ディーラーといった米国債市場の利害関係者が、政府の未払い発生前や発生時にどのような情報発信をすれば良いかを詳しく記述した指針をまとめている。
SIFMAは幾つかのシナリオを想定しているが、より確率が高いのは財務省が国債の返済期限の延長を発表し、国債保有者への支払いまでの時間を稼ぐという展開。そうすれば市場の機能は維持される半面、遅延利息は発生しそうにない。
最も混乱を招くシナリオは、財務省が元利金返済と返済期限延長のどちらもできない局面。未払いとなった国債はもはや売買や、政府証券発行・決済・振替サービス「フェドワイヤー証券サービス」を通じた換金ができなくなる恐れが出てくる。
いずれもシナリオでも、金融機関は業務上で重大な問題に直面し、取引や決済の事務は毎日手作業で軌道修正しなければならない。
SIFMAのマネジングディレクター兼資本市場担当アソシエート・ゼネラルカウンセル、ロブ・トゥーミー氏は「これは未曽有の事案なので対応は難しいが、われわれはメンバーと協力し、混乱が見込まれる状況を乗り切るための計画を確実に整備することを目指している」と述べた。
ニューヨーク連銀が肝いり役となっている財務省証券市場慣行に関する懇談会(TMPG)も、未払い国債の取引に関する計画を持ち合わせており、昨年11月29日にウェブサイトに掲載された議事要旨には、同年末に計画を改定する予定が記されていた。
過去に債務上限問題の紛糾があった2011年と2013年には、米連邦準備理事会(FRB)の事務方や政策担当者が、デフォルトに陥った証券を市場から完全に除外するために必要な手続きを盛り込んだ指針を策定している。
FICCを所有する証券保管振替機構(DTCC)は、現在の状況を注視しつつ、SIFMAの指針をベースにした多くのシナリオを策定していると述べた。「われわれは業界のパートナーや規制当局、市場参加者とも力を合わせ、協調的な行動に万全を期している」という。
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