- 2023/06/24 掲載
アングル:外為デリバティブ、店頭から取引所への移行拡大
店頭約定のデリバティブ利用者が規制の対象になる例が増えたため、取引所取引に軸足を移して法令順守コストを抑える必要性が高まった形だ。
ソシエテ・ジェネラルのFXトレーディング・セールストレーディング責任者ベン・フューアー氏は「(取引所上場商品の取引においては)透明性は改善し、必要な証拠金は全体として少なくなる。これは資産運用会社やヘッジファンドがポートフォリオにレバレッジを効かせる際にプラスとなる」と指摘した。
昨年9月時点で、バイサイドの市場参加者が抱えていた少なくとも80億ドル相当の未清算店頭デリバティブが、バーゼル銀行監督委員会と証券監督者国際機構(IOSCO)の定めた新たな規制の対象となり、取引相手のデフォルト(債務不履行)リスクに備えて十分な証拠金を積まなければならなくなった。
金利上昇が証拠金コストを押し上げている面もある。
CMEグループなどの取引所と提携して先物とオプションの商品開発を手がけているエリス・イノベーションズのマイケル・リドル最高経営責任者(CEO)は「多くの取引所のセールス担当者がこれまで長らく投資家を回って『上場先物商品の取引が(店頭より)はるかに効率的ですよ』と説得してきたが、金利水準がゼロではなく5%になってようやく真剣に受け止められている」と述べた。
特に初めて証拠金を積むバイサイドの市場参加者にとって金利上昇の痛みが最も大きい、と話すのはCMEグループのFX市場責任者ポール・ヒューストン氏。「彼らには証拠金差し入れという資金コストとともに、証拠金ファシリティー設置に伴う業務と法令、保管面でのコストも発生する」という。
CMEの上場外為先物・オプション市場の1日当たり平均売買高は現在850億ドル。全体で1日7兆5000億ドルが取引される外為市場の規模からすればまだ非常に小さいが、2021年の760億ドルからは増加し、投資家による店頭取引から取引所取引への移行が進んでいる様子がうかがえる。
英清算会社LCH傘下のフォレックスクリアも5月に扱った外為オプション取引の名目元本が初めて2000億ドルを突破。同社を統括するジェームズ・ピアソン氏は「バイサイドにとって、(取引所経由の)清算はカウンターパーティーリスクを大幅に引き下げ、ポートフォリオを最適化し、業務運営面でメリットをもたらしてくれる」と説明した。
<リスク集中懸念も>
CMEのデータによると、同取引所で今年初めて外為先物・オプションの取引を開始した投資家は60社前後で、その3分の2強はバイサイドの顧客だった。昨年、こうした取引を始めた投資家は300社だったという。
国際スワップ・デリバティブ協会(ISDA)の見積もりでは、昨年9月に新たな規制が適用される形になった投資家は775社だ。
ヘーゼルツリーの商品管理ディレクター、ジョー・スピロ氏は、投資家のエクスポージャーが大きくなるのに伴って新たな規制に従う必要が出てくる中で、取引所取引に魅力を感じる層は拡大しつつあるとの見方を示した。
もっともコストが増大したからといって、全ての投資家や全てのデリバティブが取引所取引・清算へ移行すると想定されるわけではない。
BNPパリバ・アセット・マネジメントの通貨チームでポートフォリオマネジャーを務めるピーター・バサロ氏は、取引所で売買される先物契約は、店頭取引と比べて決済期日が固定的で、一部の投資家にとっては妙味が薄いと述べた。
より多くの取引が清算会社に向かえば、リスク低減よりもリスク集中を招くと懸念する声も出ている。
エリス・イノベーションズのリドル氏は「互いにデリバティブを売買している多くの市場参加者には本源的なリスクが内在しており、それら全てを取り除くモデルなどない。リスクの存在場所を変えるだけであり、リスクを弱めることはできない」とくぎを刺した。
(Laura Matthews記者)
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