- 2023/06/26 掲載
アングル:自動車各社、黒鉛の「脱中国」模索 EV需要急増で
EV電池の材料のうち、黒鉛は重量ベースで最も多くを占める。自動車メーカーはこれまでリチウムやコバルトなど他の材料に注目し、黒鉛不足への備えが遅れていた。
コンサルティング会社プロジェクト・ブルーによると、EV電池向けは今年初めて天然黒鉛市場の50%以上を占める見通し。メーカーはマダガスカルやモザンビークなど、新たな生産国から調達しようと取り組んでいる。
米国と欧州で、重要鉱物の中国依存を減らすことを狙った法律が施行もしくは提案されていることもあり、中国以外で生産される黒鉛の不足はさらに深刻化しそうだ。
オーストラリアの素材メーカー、タルガ・グループの創業者でマネジングディレクターのマーク・トンプソン氏は「自動車メーカーは西側の黒鉛(開発)にまったく投資してこなかったため、苦境に追い込まれている」と語る。
EV1台の電池パックには、アノード(陽極)用に平均50─100キログラムの黒鉛が必要。これはリチウムの約2倍だ。
これまで黒鉛は主に鉄鋼産業で使われてきた。しかしBMOキャピタル・マーケッツの予想では、EV販売は2030年までに3倍以上の3500万台に増える見通しだ。
プロジェクト・ブルーは、今後数年間で黒鉛不足が深刻化し、30年までに世界で77万7000トンが不足すると予想している。
ベンチマーク・ミネラル・インテリジェンス(BMI)は報告書の中で、需要を満たすためには30年までに約120億ドルを投資し、35年までに新たに鉱山を97カ所開発する必要があるとしている。
またBMIによると、中国は世界の天然黒鉛生産の61%、アノードに使う精製処理済み黒鉛の98%を生産している。
<契約に奔走>
タルガ・グループのトンプソン氏は、テスラ、トヨタ自動車、米フォード・モーターといった自動車メーカーや、スウェーデンのノースボルトなどの電池メーカーに黒鉛を供給したいと語った。
タルガは既に、メルセデス・ベンツ、ステランティス、ルノーなどと関係のある欧州電池メーカー2社と拘束力のない供給合意に署名した。
メルセデスは、黒鉛を含む原材料の調達先を分散し、「以前からさまざまなサプライヤーと対話している」と説明した。
ネクストソース・マテリアルズの執行バイスプレジデント、ブレント・ニコリアション氏は「全ての自動車メーカーは今、電池材料の調達をどうするべきか、鉱山レベルから必死で考えている」と述べた。
ネクストソースは4月にマダガスカルの鉱山に事業を委託した。自動車メーカーとも協議しているが、詳細は非公開としている。
テスラは黒鉛確保の先陣を切っており、豪マグニス・エナジー・テクノロジーズや、モザンビークで鉱山を運営する豪シラー・リソーシズと既に契約した。
<圧倒的な中国支配>
しかし、こうした西側諸国による黒鉛精製事業の拡大は、ゆっくりとしたペースになりそうだ。
BMIのシニアアナリスト、ジョージ・ミラー氏は「黒鉛に関しては中国が今も信じられないほどの支配的地位にあり、今後何年も支配力を維持するだろう」と語った。
中国は昨年、精製黒鉛の一種であるコーティングのない高純度の球状化黒鉛のシェアが100%で、BMIによると2032年時点でも79%を支配している見通しだ。
米インフレ抑制法によるEV向け補助金獲得を狙う自動車メーカーにとっては、こうした中国の市場支配が壁になるかもしれない。同法では一部の電池材料について米国、もしくは米国と自由貿易協定を結ぶ国で生産することを、補助金支給の条件としている。
欧州連合(EU)は重要な鉱物資源について、一国への依存度を2030年までに65%以下に抑えることを狙った法案を提示した。
石油製品を原料とする人造黒鉛もあるが、天然黒鉛を使ってアノードを生産する方が二酸化炭素排出量は約55%少ない。西側の自動車企業が黒鉛鉱山との契約に注力するのは、こうした事情も働いている。また天然黒鉛の方が安価で、電池セルの能力も高くなるという利点がある。
(Eric Onstad記者)
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