- 2023/08/07 掲載
焦点:中国で預金膨張、投資に向かわず「流動性のわな」リスク
最新の公式データによると、金融機関は今年第1・四半期に5兆5000億元(約7661億2000万ドル)相当の譲渡性預金(CD)を発行した。中国でCD発行が解禁された2015年以降で、四半期ベースとしては最大の発行額となった。
国内の投資家たちはリターンを求めてCDに殺到した。伝統的な投資手段だった不動産や株式市場が規制や経済上の問題で不安定になっているため、国内投資家はこれら市場から撤退している。
こうした動きに企業も参入し、中国経済の重しとなっている。金利が低下しているにもかかわらず、企業も家計も現金を投資するよりもため込んでいる。1990年代から数年にわたって日本を悩ませた典型的な流動性のわなだ。
ナティクシスのアジア太平洋地域担当チーフエコノミスト、アリシア・ガルシア・エレロ氏は「90年代の日本の経験を踏まえると、中国はバランスシート不況に起因する流動性のわなに陥るリスクがある」と指摘する。
アナリストたちは、90年代に日本が直面したのと同じように、現在の中国の家計や企業も自信を失っているとみている。しかし、中国の場合は重要な違いがある。それはデフレの脅威がまだなく、銀行が融資を停止していないことだ。
著名なエコノミストで中国人民銀行(中央銀行)の元顧問である樊綱氏は6月のフォーラムで、中国は流動性のわなには直面しているが、日本型のデフレの泥沼には陥っていないと分析。「お金がブラックホールに落ちるようなもので、企業や家計の需要は活気がない」と語った。
中国の政策立案者は、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)後の経済成長を復活させるため、金利を引き下げて銀行に貸し出しを増やすよう促している。一方、国内のA株企業約180社が今年CDに投資したと有価証券報告書に記載している。
ある国営金融機関で個人口座を担当するバンカーは、景気がさらに悪くなるかどうか誰にも分からないため、CDに対する需要は例年より高いと話す。急な出費のためにいつでも換金できる現金商品に投資する顧客もいるが、ほとんどは早期引き出しのペナルティーがある3年物のCDを契約しているという。
CDやその他の安全な理財商品への殺到は、減税や不動産支援策を通じて需要と消費を押し上げようとする政策立案者の努力を無駄にしてしまう。
米国を拠点とするインダス・キャピタルのパシフィック・オポチュニティーズ・ファンドのマネジャーであるバイロン・ギル氏も、日本の「失われた10年」の間のバランスシート不況との類似性を指摘する。「中国の場合に言えることは、経済のサブセグメントである不動産セクターが、まさにバランスシート不況のさなかにあるということだ」とし、「中国の経済生産の4分の1を占めていることを踏まえると、決して小さな問題ではない」と述べた。
<株式投資は敬遠>
中国は歴史的に貯蓄率が高い。世界銀行の推計によれば、国内総生産(GDP)に占める貯蓄の比率は主要国の中で最も高水準だ。
家計の預金総額は、6月末時点で小売売上高の30カ月分以上に相当する132兆2000億元(約18兆4100億ドル)を記録。今年上半期に12兆元増加し、10年ぶりの高い伸びを示した。
CDは銀行が発行しており、最も安全な貯蓄手段の一つと考えられている。3年物CDの利回りは通常3%前後で、銀行の要求払い預金よりも高い。
ANZの中国担当シニアエコノミスト、ベティ・ワン氏は「不動産セクターの回復の兆しがほとんど見られず、雇用の先行きも不透明な中、家計預金の積み上がりは悲観論の広がりを示唆している」とした。
中国のエナジードリンクメーカー、東鵬飲料は7月18日付の文書で、中国招商銀行の21カ月物CDと寧波銀行の17カ月物CDに投資したと発表。資本利用の効率を高め収益を増加させることが目的と説明した。
上海のある個人投資家は3年物CDに投資しているという。「今は投資機会があまりない。私の株式投資信託はまだ20%ほど下がっている」と話した。
中国の2億2000万人の個人株式投資家はブラジルの人口に匹敵し、日々の値動きの最大の原動力だが、今年は様子見姿勢を強めている。上海総合指数とCSI300指数は、今年に入って25%近く上昇した日経平均に遠く及ばない。
上海に住む50代の個人投資家は今年、貯蓄の大半をCDに投資。「明確な上昇トレンドが確認できるまでは、株式市場に資金を投入することはない」と語った。
(Winni Zhou記者、Rae Wee記者)
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