- 2023/08/29 掲載
アングル:ジャクソンホール会議、コロナ後の世界経済に厳しい見方
新型コロナウイルスのパンデミックが終わり、地政学的な緊張が再び高まる中で長期的な経済動向を把握しようとする最初の本格的な試みのひとつと位置付けられる今年のジャクソンホール会議では、カンザスシティー連銀の調査や先週末の議論から、パンデミック後の世界経済について、こうした厳しい見方が浮上した。
国際通貨基金(IMF)の首席エコノミスト、ピエール・オリヴィエ・グランシャ氏は会議の傍らインタビューに応じ、「各国は今、より脆弱な環境に置かれている。パンデミック対応に多額の財政資源を使ってしまった」と述べ、直面する問題として地理経済的な分断、貿易紛争、欧米と中国のデカップリングなどを列挙。「世界の一部が修復されることなく立ち往生して、大量の人口を抱え込めば、人口動態と移民の面でとてつもない圧力を生み出す」と警鐘を鳴らした。
グランシャ氏によると、世界の経済成長は年率3%前後のトレンドに落ち着く可能性があるが、この数字は、中国経済の急速な発展が世界の生産を押し上げたときに見られた4%をはるかに下回る。一部のエコノミストは、発展が比較的進んでいない大国でまだ急成長が達成可能な世界では、こうした成長率がリセッション(景気後退)入りの境界線になると考えている。
元IMF首席エコノミストで現在はピーターソン国際経済研究所の特別研究員あるモーリス・オブストフェルド氏はパンデミック後の経済について、「世界の成長環境は非常に厳しくなっている」と語った。
中国は現在、人口減少とともに慢性的な経済問題に苦しんでいる。米国などの国々は新たな産業政策によってグローバルな生産チェーンを再編しているが、それは耐久性が高く、国家の安全保障には資するものの、効率的ではなさそうだ。
エコノミストや政策立案者の間では、パンデミック以前からの世界の成長に関わる2つのトレンドが、医療危機など最近の動きによって一段と強まったという点で、大まかなコンセンサスが形成されているようだ。
IMFのエコノミスト、サーカン・アルスラナルプ氏とカリフォルニア大学バークレー校の経済学教授、バリー・アイケングリーン氏は論文で、15年前の世界金融危機の際に急増した公的債務の世界経済に対する比率がパンデミックによる財政支出のせいで40%から60%に上昇し、今では債務削減を本格的に進めることが政治的に不可能なレベルに達している可能性が高いと指摘した。
公的債務がこの水準に高止まりすることの意味合いは国によって異なる。米国など、債務水準は高くても所得が多い国であれば、時間をかけて何とか乗り切ることができる公算が大きいが、小国は将来的に債務危機や財政面の制約に直面する可能性があるという。
コーネル大学のエスワール・プラサド教授(経済学)によると、公的債務のせいで、人口が増加しているのに経済が発展していない国から資本が流出すれば、世界的に深刻な事態になる。
<あからさまな時代>
パンデミック以前のもうひとつの流れは、トランプ前米大統領の政権下で実施された明らかに保護主義的な関税から、コンピューター用半導体などの生産を米国内に戻そうとするバイデン現政権の取り組みまで、さまざまな政策であからさまな傾向が強まっている点だ。
米大統領経済諮問委員会(CEA)委員長のジャレッド・バーンスタイン氏はシンポジウムで、バイデン政権の産業政策は必ずしも国際貿易の拡大にとってプラスでもマイナスでもないと述べた。例えば半導体製造に欠かせない中間財の多くは輸入されるからだという。
ロシアのウクライナ侵攻と、それに続く欧州電力網のロシアのエネルギーからの急速な切り離しによって、グローバリゼーション拡大の背後にあった重要な認識のひとつが崩れたと指摘する声もあった。それは貿易が、完全な同盟国とまではいかなくても、耐久性のあるパートナーシップを生み出すだろうという認識だ。
英中銀イングランド銀行のベン・ブロードベント副総裁は、「かつては、貿易が盛んになれば友好国が生まれると考える、もっと甘い考えの時代があったものだ」と語った。
一方、世界貿易機関(WTO)のオコンジョイウェアラ事務局長は、パンデミックが特に医薬品のような扱いの難しい品目で提起した世界的な供給回復力に関する問題は理にかなっているが、世界的な生産体制を再編する動きは、成長の機会を置き去りにする危険性を伴うと警告した。
明るい材料があるとすれば、生産性向上の原動力となりうる人工知能(AI)の進歩についての議論だろう。
しかしそれさえも、AI技術がもたらすかもしれないマイナスの影響や、技術革新が急速に困難になっていることを示す調査結果を考慮に入れざるを得ないし、それ以上にどのような恩恵も遅々として広まらない可能性がある。
(Howard Schneider記者)
関連コンテンツ
関連コンテンツ
PR
PR
PR