• 2024/05/05 掲載

アングル:中国減速、高級大手は内製化 岐路に立つイタリア革製品下請け産業

ロイター

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Silvia Ognibene Elisa Anzolin Valentina Za

[フィレンツェ(イタリア) 24日 ロイター] - 伝統的な革製品製造の中心地として栄えてきたイタリア北部トスカーナ地方。最大手の高級ブランドに納品する下請け製造会社が多く拠点を置く当地が、中国における需要後退の直撃を受けている。大手ブランドは生産戦略の再編に着手しており、従業員の解雇などの「痛み」は序の口にすぎない可能性がある。

仏ケリングは4月、傘下主要ブランド「グッチ」が特にアジアで不振に陥っているとして、上期の営業利益が40─45%減少するとの見通しを示した。コロナ禍終息後に見られた高級ブランドのバッグや靴への需要急増は一息ついた形だ。

世界最大の高級ブランドグループLVMHも同月、アジアでの第1・四半期の売上高が6%減少したと報告した。

最大手の高級ブランドグループの多くは、グッチと同様に、革製品製造の拠点をトスカーナ地方に置き、コロナ禍終息後の需要急増を受けて発注を増やしていた。だがその後の減速により、倉庫は在庫で溢れ、サプライヤー側は梯子を外された格好だ。

約60人の従業員を抱え、ハンドバッグや財布を製造する革製品メーカーのヨーベルを経営するマルコ・カラレジ氏は、その影響をひしひしと感じている。

「影響は非常に大きい。生産能力の50%をイタリアの大手ブランドのために確保していたが、昨年9月の時点で、その発注がキャンセルされてしまった」とカラレジ氏はロイターに語った。

「2月初めから従業員の半数を一時解雇している。それを回避したくて八方手を尽くしたのだが」とカラレジ氏は続ける。ヨーベルはフィレンツェ近郊のフィリーネ・バルダノを拠点としている。

<数世紀にわたって蓄積した技術の存続>

トスカーナ地方は何世紀にもわたり革製品製造の中心地であり、熟練した職人芸に対する高い評価を培ってきた。高級ブランド品が桁違いに高い値段をつけられるのも、そのおかといえる。

だが地元の関係者によれば、今回の低迷は一時的な落ち込みではなく、大手ブランドのやり方が根本的に変わってきたことも映しているという。

「かつて、革製品の下請けは4次請け、いや5次請けまで伸びていた。だがこの4─5年のあいだに大幅に短縮され、現在では各ブランドとも最大で孫請けまでしか使っていない」と語るのは、職人・中小企業全国連盟(CNA)でフィレンツェの革製品メーカーの代表を務めるシモーネ・バルドゥッチ氏。

「コロナ禍が終息して生産は倍増したが、市場はそれを吸収しきれなかった。今は在庫が山積している。その間に、ブランド側は多くのサプライヤーを吸収合併し、職人を社内に取り込んでいる」とバルドゥッチ氏は言う。

データもこの言葉を裏付けている。

昨年、トスカーナ地方の中小革製品メーカー428社は、4531人の労働者を一時解雇した。公式統計によれば、今年1月だけでもさらに112社が1373人を一時解雇している。

一時解雇制度で認められるのは6カ月間まで。それが終われば、メーカー各社は存亡の危機に立たされる。ブランド側では製品の高級化と絞り込みが進んでおり、外部のサプライヤーへの依存度は低下していためだ。

コンサルティング会社ベイン・アンド・カンパニーとアルタガンマ財団の調査によれば、2023年には世界全体での革製品の売上高が3─4%増加したものの、すべて価格の上昇によるものであり、販売数量はここ10年で初の減少になった。調査は、「より高級な投資的アイテムへの需要が浮き彫りになった」と指摘している。

影響を受けている企業の多くは、小規模で利益率も低い。受注量の突然の変化を受け止める余裕はなく、新たな消費トレンドに適応できるような投資負担にも耐えられない。

コンサルタント会社ユーロピアン・ハウスの上級パートナー、フラビオ・スキュキャティ氏は、「特にここ数年、革製品メーカーの利益率が低下している。ブランドが内製化を進めていることが一因だ」と語る。

ブランド側が内製化を進めた場合、製造コストははるかに高くなる。

「ブランドは、デザインにせよ製品開発にせよ、付加価値が高い部分については何でも社内で処理し、付加価値が少ない部分については外注しようとする傾向がある」とスキュキャティ氏は説明する。

業界関係者によると、社外に製造を委託している場合、高級ハンドバッグの小売価格に占める製造コストの比率は合計で10─15%で、委託先が受け取る報酬はこの一部にすぎないという。

<大手ブランドを越えて>

専門性の強いサプライヤーの中には、大手ファッション企業に背を向けて、ニッチ市場向けの限定版アイテムの製造に注力するところも出てきた。

そうした路線転換を10年前に試みて成功したのが、創業70年のサパフ・アトリエだ。多くの革製品サプライヤーと同様に、フィレンツェ郊外スカンディッチに拠点を置く。

「私たちは小規模で独立性の強い家族経営の企業だ。有名ブランドではなく、小さな新進のレーベルの仕事をしている」とオーナーのアンドレア・カリストリ氏は語る。

「ターゲットとする顧客は、たとえば、大都市でこのバッグを所有するただ1人の人間でありたいと考えるような人だ」とカリストリ氏は説明する。同氏の工房は今年3人のスタッフを採用し、合計で22人体制となった。

サステナブルな(持続可能性の高い)ファッションを志向するトレンドの拡大に適応するため、サボテン由来の素材によるバッグにも取り組んでいる。米国の小さなブランド向けに金の縁取りを施し、小売価格は2万ドル(310万円)だ。

対照的に、依然として大手ブランドに依存しているサプライヤーは、これまでより社会問題や環境問題に敏感になった消費者に対応するために必要な改革を進めるのに苦労している。

一方で、大手ファッション企業もブランドの防衛に追われている。

サプライヤーとの関係で大手ブランドが直面しているリスクを象徴するのが、4月にミラノの裁判所がジョルジオ・アルマーニの経営を司法管理下に置いた件だ。同ブランドが、労働者搾取の容疑がかかっている国内の中国系企業に間接的に生産を委託していたという告発への対応だった。

アルマーニ・グループは、「サプライチェーンにおける不法行為を最小限に抑えるよう、常に管理・予防措置を講じてきた」との声明を出し、自社の立場を明確にするために当局に協力すると表明した。

こうした状況を受け、トスカーナ地方では、「メイド・イン・イタリー」の魅力を決定づけていた唯一無二のスキルが部分的にせよ永遠に失われてしまうのではないか、という懸念も出ている

CNAでトスカーナ地方革製品産業代表を務めるパオロ・ブロギ氏は、「特別な措置がとられない場合、こうした工房で余剰人員が発生するだけなら御の字だが、最悪のシナリオでは工房が潰れてしまう」と話した。

(翻訳:エァクレーレン)

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