- 2025/03/07 掲載
焦点:成長経済へAIに活路、生産性1.3%改善の試算も 近く促進策
[東京 7日 ロイター] - 石破茂政権が掲げる成長型経済への移行では、ロボットや人工知能(AI)などへの省力化投資が欠かせない。AI活用を最大化できれば生産性が年平均1.3%改善するとの民間試算もあり、政府は近く、投資促進に向けた具体案の策定に乗り出す。投資の成否は、潜在成長率の底上げも左右しそうだ。
<見慣れた光景>
飲食店やオフィスビル、商業施設などでロボットが働く光景は、日常生活でも見慣れたものとなってきた。
「ニーハオ!青く光るトレーからお料理をお取りくださいニャ」。中華ファミリーレストラン「バーミヤン」では、ネコ型配膳ロボットが厨房とフロアの間を軽快に動き回る。
すかいらーくホールディングスは、この配膳ロボをコロナ禍で非接触サービスの需要が高まっていた2021年秋に導入。現在、グループの全国約2100店舗で稼働させている。ある平日の夕刻、100席超の6割程度が埋まった店内で働くのはシニア女性スタッフ1人とこのロボだけだったが、運営に大きな混乱は見られない。
AIもまた、米オープンAIが22年11月に対話型AI「チャットGPT」を公開してから急速に認知度が高まっている。20年末に275万人だった日本の生成AI利用者数は23年末に1318万人と約5倍に増え、27年末には3760万人に達するとの推計もある。産業界でもAIが普及フェーズに入ったとの見方が増えてきた。
<中小にも成功事例>
日本はデジタル人材の不足をはじめ課題が多いと指摘されるが、中小企業がAIを活用して経営改革を進めた好例もある。三重県・伊勢神宮の近くに立地する老舗食堂「ゑびや」は、その一つだ。長年の「経験と勘」に頼った店舗運営から、データとITを利用した経営へと転換した。
POSデータ、天気予報、近隣宿泊施設の予約状況、カレンダー情報、グーグルのアクセス数など多様な関連データからAIが来客者を予測し、廃棄ロスの削減や適切な人員配置を実現。同時に、バックオフィス業務の外部委託も推進し、少人数で運営できる体制を作った。
さらに、従業員に新たな業務を任せることでスキルセットを拡張させ、テイクアウト、小売りなどへと事業領域を広げた。飲食店からスタートした同社は、2024年度に7業種、グループ売上高12億円を計画する。小田島春樹社長は「AIを導入すれば生産性が向上するわけではない」と強調。AIはあくまで経営判断の指標として活用するものであり、実際の業績向上には企業自身がどのような行動を取るかが重要だと話す。
<政府支援>
政府は「中小企業省力化投資補助金」や「ものづくり補助金」、「IT導入補助金」など多様なメニューで中小・中堅企業のAI・デジタル活用を支援している。政府内には「持続的な賃上げには生産性向上が不可欠」(経済官庁幹部)との声が根強く、石破茂政権も人手不足が深刻な業種に省力化を促す「投資促進プラン」の取りまとめを急ぐ。
足元で物価と名目賃金はともに上昇しているが、実質賃金の明確な上昇にはつながっていない。中小企業庁の24年版中小企業白書は「省力化投資に取り組むことは、人手不足の課題を解決するだけでなく、企業の生産性を向上させ、持続的な賃上げを実現することにもつながっていることが示唆される」という。
省力化投資を促す背景には、世界で遅れをとる潜在成長率の引き上げを図る狙いもある。
<経済効果大きく>
AIは今後、定型的な作業だけでなく、自動運転やロボットを通じて物理的な作業にも適用されていく可能性も高いとみられている。みずほリサーチ&テクノロジーズの試算では、2035年までに想定されるAI、自動運転、ロボットの技術の進展と普及レベルを前提にすると、日本全体の労働時間を17.2%削減する効果が得られる。さらに、浮いた余力をヒトが価値を生みだす業務に振り向ければ、生産性は年平均で約1.3%改善し、35年までの累計で約140兆円の経済効果をもたらす可能性もあるという。
もっとも、総務省の調査によると、日本で生成AIの活用方針を定めている企業は42.7%にとどまり、米国の78.7%、中国の95.1%に比べて大きな開きがある。
みずほリサーチの越山祐資・主任エコノミストは「中小企業はデジタル人材の確保が最大のネックとなるが、ベンダーも使いやすいパッケージを開発するなど工夫を進めている。企業もまずは小さな一歩を踏み出すことが重要だ」と話す。
市場では「供給側の強化だけではデフレギャップを生み出す。需要が増えなければGDPも伸びず、賃金の上昇も見込めない」(大和証券の末広徹チーフエコノミスト)との声も残る。供給力の強化と併せ、需要を喚起できるかのバランスも求められる。
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