- 2025/05/21 掲載
焦点:超長期債に二つの逆風、金利上昇止まらず 財務省・日銀の対策カギ
[東京 21日 ロイター] - 円債市場で起きている需給の地殻変動に加え、7月の参院選に向けた財政拡大論の広がりにより、超長期国債の金利が市場参加者の予想を超えて急上昇している。一部の海外勢は買い出動し始めたものの、従来の主力の買い手だった生命保険会社の代替としては力不足だ。金利上昇に天井感は見えず、発行額の減額や既発債の買い入れなど財務省や日銀から何らかの対応策が示されるのか注目されている。
<記録的不調の入札、金利「見たことのない」水準>
国債市場では、財務省がきのう実施した20年債入札でテール(平均落札価格と最低落札価格の差)が38年ぶり水準となる記録的な不調だったことをきっかけに超長期国債が売られ、30年・40年金利が過去最高水準に急伸。その流れは21日も止まらず、30年金利は3.185%、40年金利は3.635%と記録をあっさり塗り替えた。
日銀利上げ観測の後退や日本の財政拡大懸念を受けて、国債のイールドカーブがスティープ化基調にあることも背景となっている。
2000年代の東京で日本国債トレーダーの経験がある米モルガン・スタンレーのマクロ戦略のグローバル責任者、マシュー・ホーンバック氏(ニューヨーク在勤)は「30年金利でこんな水準は見たことがない」と驚きを隠さない。海外勢の投資意欲は高まっているとして、国内勢の超長期国債への需要が従来と比べて落ち込んでいることが原因との見方を示す。
超長期債はこれまで、生命保険契約という超長期の負債を抱えて運用を行う生命保険会社が主な買い手となってきた。しかし国内の主要生保10社が先月示した2025年度計画では、規制対応の一巡などを理由に国債残高は横ばいから減少を見込む向きが多く、需要減退が示唆されている。
さらに都銀なども超長期国債の売り手となった。年初までは日銀の利上げ継続を想定してイールドカーブのフラット化を見込む(フラットナー)ポジションを構築していたが、トランプ米政権の関税政策を巡る混乱で利上げ観測が大幅に後退する中、過去2カ月はそうしたポジションの解消に動き、超長期国債の売り圧力に加わった。
<海外勢の買い、過去最大規模>
一方で、超長期国債の新たな買い手に浮上したのが海外勢だ。日本証券業協会がまとめた公社債店頭売買高によると、外国人は3月と4月にいずれも2兆円超と過去最大規模で超長期国債を買い越した。
ホーンバック氏は「ドル資産買いをしていた海外投資家が他の地域に投資機会を求める動きも出る中、長い年限の国債で米国以外で魅力がある投資先の筆頭候補に日本がいる」と話す。
「利回りの高さに加えて、ドル円の為替ヘッジにプレミアムが発生することも加味すれば、米国債よりも妙味がある。外国人の買いは今後も増える見込みだが、それが国内勢主体の市場を支えるのに十分かは分からない」として、イールドカーブのスティープ化は続くとの見方を示した。
日銀のイールド・カーブ・コントロール(YCC)政策の終了を見込み、かつて日本国債をショートしていたことで知られる英RBCブルーベイ・アセットマネジメントも、先月から30年国債のロングを始めている。マーク・ダウディング最高投資責任者(CIO)は「ドイツ国債よりも高い利回りは魅力的。ボラティリティが落ち着けば、いったん引いてしまった買い手も現れるだろう」との見方を示した。
<公的支援なければ「超長期債ショック」も>
円債市場では、財務省や日銀による「公的支援」を求める声が上がり出した。
JPモルガン証券の山脇貴史債券調査部長は、「財務?・日銀による介入の無い自由な価格形成が?われることが?想だが、足元の超長期債の崩壊を何らかの形で止めないと、格下げや追加財政などを起点としてさらなる超長期債ショックが起こる可能性がある」として、公的サポートを呼び水に超長期セクターでのセンチメント改善を図る必要があると指摘。
具体的には、日銀の国債買入れ対象年限の長期化や区分の見直し、また財務省による超長期債の発行減額といった需給改善策や、買入消却(バイバック)などでオフザラン(カレント以外の既発債)銘柄を吸収したりする流動性改善策が考えられるという。
三井住友トラスト・アセットマネジメントの稲留克俊シニアストラテジストは、来週以降も超長期国債の入札が相次ぐうえ、7月の参院選に向けては野党を中心にばらまき的な公約が出るなど財政拡張論が強まりやすいとして、超長期金利の一段の上昇を警戒する。
「30年3%も、40年3.5%も単なる通過点となり、ほんの数週間前には考えられない世界になっている。まるで『糸の切れた凧』状態で、参院選までに30年3.5%、40年4%に到達してももはや不思議ではない」との見方を示した。
(植竹知子 編集:橋本浩)
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