- 2025/05/31 掲載
アングル:トランプ関税、世界主要企業の負担総額340億ドル超に
[サンフランシスコ/ニューヨーク/ベンガルール 29日 ロイター] - トランプ米大統領が打ち出した関税措置によって、売上高の減少やコスト増大を通じて全世界の主要企業にのしかかる負担額の合計は340億ドル(約4兆9000億円)を超える――。ロイターが各企業の開示情報に基づいて独自にこうした数字を算出した。
しかも一部の大手企業が関税を巡る不確実性を理由にさまざまな意思決定を見送っている影響で、負担はさらに大きくなる恐れもある。
米国やアジア、欧州各地でアップル、フォード・モーター、ポルシェ、ソニーといった企業が相次いで利益見通しを撤回したり、引き下げたりしている。トランプ氏の貿易政策に一貫性がないので、正確なコストの見積もりは不可能、というのが大多数の企業の声だ。それでもロイターは企業の発表や当局への届出書類、報道資料などを分析し、初めて世界全体の企業負担規模を割り出した。
この負担額は、米S&P総合500種構成企業32社とSTOXX欧州600指数の3社、日経平均株価(225種)の21社の合計だが、最終的にはこれまで企業が開示した分の数倍に膨れ上がる公算が大きい、と複数のエコノミストは警告する。
イェール大学経営大学院のジェフリー・ゾンネンフェルド教授は「合計が2倍ないし3倍に達してもおかしくない。その規模は大半の人々の認識よりずっと大きくなるのは間違いない」と述べた。
ゾンネンフェルド氏は、消費者や企業の支出減少や予想物価上振れの可能性を挙げて、波及的なマイナスの影響はさらに深刻化しかねないと付け加えた。
企業自身も最終的な負担規模は見えていない。決算発表シーズンが終わりを迎えようとする中で、ロイターが調べたところでは、少なくとも42社が業績見通しを下方修正し、16社は見通しを撤回するか発表を停止したことが分かった。
例えば米小売り最大手ウォルマートは四半期利益見通しの公表を見送り、製品の値上げを発表してトランプ氏の怒りを買った。米関税の打撃が最も大きい欧州自動車メーカーの1つ、ボルボ・カーは向こう2年の利益見通しを撤回。米ユナイテッド航空は2通りの見通しを示し、今年のマクロ経済環境を予想することはできないとさじを投げた。
<見通し示せず>
第1・四半期決算に関する企業の説明会においては、S&P総合500種企業の72%に当たる360社が関税に言及し、この割合は昨年第4・四半期の150社(30%)から大きく切り上がった。STOXX欧州600指数企業と日経平均株価(225種)企業でも、関税に触れた企業の割合がそれぞれ161社と12社から219社と58社に増えた。
リチャード・バーンスタイン・アドバイザーズのリッチ・バーンスタイン最高経営責任者(CEO)は「企業が将来について何か相応の視認性を持っているとは思わない」と語り、業績見通しの撤回が広がっている点を指して「このように不確実な世界を考慮に入れるなら、誰かに数字を示すことなどできず、提示しない方が無難だ」と説明した。
LSEGがまとめたデータによると、ウォール街で見込まれているS&P総合500種企業の4月から12月までの四半期ベースの平均増益率は5.1%で、前年同期の11.7%を下回っている。
業種別に見ると、自動車や航空、消費財輸入などへの逆風が最も厳しい。例えばサプライチェーン(供給網)が非常に広範囲にわたる自動車は、アルミニウムや電子製品を含めた部品への関税上乗せや多数の国に対する関税発動で、組み立てのコストが割高化している。米国に生産拠点を移そうとしても、今度は人件費が上がってしまう。
ティッシュペーパーの「クリネックス」を製造するキンバリー・クラークは先月、通期利益見通しを引き下げ、関税によるサプライチェーン関連コストの増大で約3億ドルの費用が発生すると述べた。
同社はその数日後、向こう5年で米国内の生産能力拡大に向けて20億ドルを投じると表明。この数字はロイターが集計した世界全体の企業負担額には含まれていない。
今年になってアップルや米製薬大手イーライ・リリーなども対米投資を発表している。
スコッチウイスキーの「ジョニー・ウォーカー」などを手がける英ディアジオは今月、英国と欧州連合(EU)などから米国に輸出する製品に課される10%の関税が毎年営業利益を1億5000万ドル下押しすると想定されるため、5億ドルの経費削減と2028年までに相当規模の資産売却を進める方針を示した。
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