- 2025/06/09 掲載
アングル:マイナス金利復活へ追い込まれるスイス中銀、通貨高対応で
[ロンドン 6日 ロイター] - スイスは通貨高、物価下落という2つの問題に対処するため、マイナス金利政策を復活させる世界最初の主要国になる可能性がある。世界的な貿易戦争が展開される中で、中央銀行の伝統的な政策手段が早くも枯渇しつつある構図が浮き彫りになっている。
6月第1週に発表されたスイスの5月消費者物価指数(CPI)は下落。物価押し下げを加速させるスイスフランの高騰を抑え込むのに苦心しているスイス国立銀行(SNB、中央銀行)が現在0.25%の政策金利をマイナスに引き下げる事態を、市場が一段と想定するようになった。
欧州各国の中銀は2022年、銀行と預金者の双方を10年間にわたって痛めつけてきたマイナス金利からようやく脱却した。
融資を促すため、中央銀行が各銀行の預け入れた預金に利息を払うのではなく手数料を徴収するマイナス金利制度は、金融政策理論のコペルニクス的転回をもたらしたが、多くの政策担当者は期待したほど効果がなかったとの結論に達している。自らの投資や、投資家をリスク資産へ向かわせる上で銀行が必要とする利益を圧迫するからだ。
一方、トランプ米大統領が仕掛けた貿易戦争は中銀当局者や政治家、企業、家計にとって悪夢の組み合わせ、つまり物価上昇圧力を高めると同時に成長を減速させるリスクを高めてしまった。
さらに米国以外の政策担当者にとって問題を複雑にしているのは、ユーロやポンドから韓国ウォン、台湾ドルまで関税に敏感な国・地域の通貨が軒並み値上がりし、輸出競争力と実体経済に打撃を与えている状況だ。
スイスフランの場合、今年これまでに対ドルで11%近く上がり、現時点では2011年以来最大の上昇率になっている。
そしてSNBがこれを食い止めるには、口先介入によるスイスフラン安誘導や、短期金利の調節といった伝統的手段ではもはや十分な効果が見込めないという厳しい現実がある。
資産運用会社マールボロの債券マネジャー、ジェームズ・アセイ氏は、SNBは外国為替市場によってマイナス金利を無理強いさせられるだろうと予想した。
SNBはそうした見方に関してのコメントを拒否した。
ドル安・自国通貨高への対応を迫られている国・地域の中でスイスの政策金利は最低水準にある。次に低い日本(0.5%)も物価が上振れ、円は年初から対ドルで9%上昇している。
<限られる選択肢>
欧州中央銀行(ECB)は5日の理事会で政策金利を2%に引き下げることを決定した。年内に想定される利下げはあと1回、25ベーシスポイント(bp)だけだというのが市場参加者の想定だ。
RBCキャピタル・マーケッツの欧州エコノミスト、ジョージ・モラン氏は「実体経済を巡る話が大きく変わらない限り、SNB以外には(政策金利が)マイナス金利に接近することさえ現時点では考えられない」と話した。
これに対してスイスは選択肢が限られている。米財務省は5日に公表した外国為替報告書で、スイスを為替操作に関する「監視対象国」に指定。その翌日の6日、SNBはスイスフランの操作に関与していないと強調せざるを得なかった。
スイスも他国同様、米国との貿易合意を急いでいる中、安易な為替介入はトランプ氏の怒りを招く恐れもある。
英資産運用会社アルテミスの投資ソリューションズ責任者を務めるトビー・ギブ氏は「(スイスが)通貨政策で過度に積極的になるのは難しいだろうが、過去にはそうしてきた」と分析しながらも、通貨切り下げ的な動きをすれば米国から激しい非難を浴びることになるとの見方を示した。
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