- 2025/06/21 掲載
焦点:米で重要鉱物、オクラホマが拠点に 中国依存脱却へ
[ロートン(米オクラホマ州)18日 ロイター] - 米南部オクラホマ州のウィチタ山脈のふもとにある2階建ての建物には、現在は中国が供給を独占しているニッケルを精製できる米国唯一の機械がある。
施設を所有する新興企業のウェストウィン・エレメンツは、オクラホマ州が米国の重要鉱物加工の主要拠点になることを目指している。米国は数十年前にこの分野の施設の大部分を停止していた。
オクラホマ州は主な重要鉱物の鉱床の不足、脆弱な教育制度、国際航路から遠く離れた米国の中心部にある立地など、いくつかの障害を克服しなければならない。しかし、中国が重要鉱物の輸出規制を進める中で、オクラホマ州は予想外の動きを示している。
共和党のトランプ米大統領は、産業向け鉱物の米国での生産を強化したい考えを示している。オクラホマ州では国内唯一のニッケル精錬所、国内最大のリチウム精錬所、2つのリチウムイオン電池リサイクル工場、レアアース磁石生産施設、さらに複数の電子機器廃棄物回収施設が建設中または稼働中で、これらの数は米国の州で最多だ。
他にユミコアは太陽光発電パネル用のゲルマニウム結晶の生産拠点を抱えており、アーカンソー川支流の沿岸ではアルミニウム製錬所が来年着工する予定だ。アルミ精錬所が新設されるのは1980年以降で初めてとなる。
共和党のケビン・スティット知事はロイターに対し、「私は戦略的に、極めて重要になり得ると思われた新産業を意識的に狙ってきた」とし、「重要鉱物には投資資金が振り向けられているため、オクラホマ州に進出することになるのかもしれない」と語った。
オクラホマ州には立地、鉱脈の欠如といったマイナス要因があるものの、投資家や企業幹部はプラス要因が上回っていると話す。それらはオクラホマ州には大西洋、トランプ氏が「アメリカ湾」への改称を宣言したメキシコ湾、太平洋という米国の3つの海岸に向かう鉄道や高速道路が州を縦断していることや、エネルギー産業に精通した労働力の存在、州からの補助金や金融面での優遇措置、ミシシッピ川流域にアクセスできる大きな内陸港があること、そして当局の産業規制が緩いことなどだ。
オクラホマ州政府関係者はソーシャルメディア(SNS)で「電話を1本入れれば進出できる州」だと自慢しているが、これは規制のプロセスが合理化されていることを連想させる表現だ。
オーストラリアに本拠を置く新興企業MLBインダストリアルが今年早期にオクラホマ州へ進出したのは、まさにそれが理由だ。同社は機関車向けのリチウムイオン電池を供給している。
家族をオクラホマ州へ引っ越しさせたネイサン・リーチ最高経営責任者(CEO)は「他の州は成長性のある企業ではなく、確立された大企業が投資することを求めていた」とし、「私たちはオクラホマ州で成長するつもりだ」と訴えた。
トランプ政権の鉱物政策に詳しい情報筋は、米政府は特にニッケル精製工場の開設を長年求めていたものの、中国製品による価格競争激化が参入希望企業を遠ざけていたと指摘する。
カリー・ロング氏が創業したニッケル精製企業のウエストウィンは、中国から輸入する重要鉱物に米国が依存しているのを脱却することを願って「西側が勝つ」という意味の社名を付けた。同社は州都オクラホマシティーの南85マイル(約137キロ)の場所に実証施設を建設し、年間200トンのニッケルを精製できると説明する。30年までに精製量を年間3万4000トンへ引き上げる予定だ。
ベンチマーク・ミネラル・インテリジェンスの需要予測に基づくと、ウエストウィンの計画が実現した場合には米国のニッケルの年間需要の10%を精製できることになる。施設ではトルコとインドネシアの鉱山から採取した岩石と、リサイクルされた米国の電池を利用する。
ウエストウィンは、バイデン前政権(民主党)で導入されたグリーンエネルギーへの補助金や、共和党が猛反対している製造業への連邦税控除を廃止しないよう連邦政府に働きかけている。
ウエストウィンは、軍事用ドローンや他の機器の電池を製造するための金属を米国内で確保することを目指す国防総省とニッケル供給契約の締結に向けて交渉中だ。
<再生可能エネルギー>
北東約220マイル(約354キロ)ではスターダスト・パワーがリチウム精製工場を建設しており、2030年までに米国で必要とされる量の約5分の1に当たる年間5万トンの電池用金属の生産を目指している。住友商事は今年2月、この工場の生産量の最大で半分を購入する予備契約を結んだ。
スターダストは、商業規模ではまだ実現していない塩水からリチウムをろ過する工場を目指しており、米電気自動車(EV)メーカーのテスラが南部テキサス州に建設中の工場とほぼ同じ生産能力を持つ予定だ。
工場で使う電気の一部は再生可能エネルギーでまかない、オクラホマ州の発電量の半分弱は風力発電が占めている。スターダストのローシャン・プジャリCEOは「これは大きな魅力だった」と話す。
今年早い時期に株式を公開したUSAレアアースは、EVに使うレアアース(希土類)磁石の工場をオクラホマ州に建設することを決めた。
ジョシュ・バラードCEOは来年早期に稼働を始め、当初は40万台を超えるEVに使うのに十分な年間1200トンを生産すると説明した。中国が4月にレアアースの輸出規制を始めたため、米国での引き合いが非常に強い。
バラード氏は、4月以降に潜在顧客から「多くの電話」を受けていると語った。同社は17日、人工知能(AI)向けデータセンターで使うレアアース磁石を供給することでムーグと予備供給契約を結んだ。
バラード氏は「私たちは迅速にできる。どのようにするのかと、政府の支援を触媒にできるかどうかだ」と言及。オクラホマ州選出のマークウェイン・マリン上院議員(共和党)ら3人の上院議員は今月、レアアースから磁石を製造するコストの約30%を税額控除する法案を提出した。
また、グリーン・リチウムイオンとブルー・ホエール・マテリアルズがそれぞれ手がけるオクラホマ州の2つの電池処理施設では、リチウムイオン電池を分解し、銅や新しい電池の部材に使えるようにする予定だ。オクラホマ州でリサイクルされた電池の大部分は、電池の細断部品として中国に輸出されている。
シンガポールに本拠を置くグリーン・リチウムイオンは、オクラホマ州では石油と天然ガスを潤沢に産出し、電池の細断部品の技術を持つエンジニアがいることに目を付けて米国の拠点を同州に移した。
グリーン・リチウムイオンのケビン・ホビー執行担当上席副社長は「オクラホマ州には多くの化学エンジニアがいる」と指摘した。
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