- 2025/07/04 掲載
アングル:ECBフォーラム、中銀の政策遂行阻む問題に焦点 政治圧力からステーブルコインまで
近年のECBフォーラムはインフレ懸念が中心的なテーマになってきた。
しかし今年は、中銀総裁によるパネルディスカッションからホテルのバーでの深夜の議論に至るあらゆる場面で、これまで当然と考えられていた通貨制度そのものに対する、より本質的な脅威が中心的な話題となった。中でも最も顕著な例は、トランプ氏によるパウエルFRB議長への度重なる攻撃だ。
UBSアセット・マネジメントが今週発表した調査によると、各国中銀の外貨準備運用担当者のうち3人に2人が、FRBの独立性が脅かされていると回答した。
パウエル議長はパネル討論会でこうした懸念を一蹴。自身を含めFRB幹部は「政治から完全に距離を置き」、インフレ抑制と完全雇用の達成に「100%集中している」と言い切った。この発言に対しては会場に集まった経済学者や中銀関係者から拍手が送られ、ECBのラガルド総裁は「もしパウエル氏の立場なら、私たちも同じようにするだろう」と賛意を示した。
<揺らぐ信認>
しかし既に信認は揺らいでいる。中銀総裁らは、ほんの数カ月前まではタブー視されていた話題、すなわち「FRBは来年、トランプ氏が指名する次期議長の下でも、困難な状況に陥った外国銀行にドルを貸し続けるのか」という問題について公然と懸念を表明した。
米国外の銀行は、たとえ金融市場から締め出されても、2008年の世界金融危機時に創設されたFRBと一部中銀のスワップ協定を通じてドルを借り入れることができる。この仕組みは、米国外で約25兆ドル規模に膨らんでいるドル建て信用市場を支えているほか、国外で発生する金融危機の炎を抑えることで、ウォール街への波及を防ぐという役割も果たしている。
しかしトランプ政権が国際協調から距離を取ったことで、この「命綱」が将来も維持されるのかを巡り懸念が高まっている。今のところスワップ協定が打ち切られる兆候は見られないものの、不安は払拭されていない。
韓国中銀の李昌鏞(イ・チャンヨン)総裁は会合で、同行はECBなど他の主要中銀と異なりFRBと恒常的なスワップ協定を結んでおらず、必要な時に一時的な支援に頼っている状況だと説明。「世界的なドル不足が生じなければ、FRBはスワップ枠を延長できないというのがわれわれの理解だ。その場合、自衛しなければならない」と不安をにじませた。
日銀の植田和男総裁も、東南アジア諸国連合(ASEAN)のチェンマイ・イニシアティブのような地域的なスワップ協定の重要性を、追加的な安全網として強調した。
匿名を条件に話したある欧州の中銀幹部は、各国がドルや金の準備資産を共同でプールすることが一時的な措置になる可能性があるが、大規模な不足を補うには不十分だろうと述べた。
こうした懸念は、「ドルが世界の基軸通貨としての地位を失うのではないか」という、より広範な議論へと波及している。もっとも、現時点ではドルに代わる現実的な通貨はない。
パウエル議長は、FRBは法的権限を依然として保持しており、「それを使う用意もある」と述べ、不安の払拭に努めた。
<ステーブルコイン>
ステーブルコインは今年の会議で初めて議論の俎上に上がり、一部の中銀総裁は会場付設のバーでもこのテーマについて話し込んだ。
一部の出席者はステーブルコインが交換手段として効率性を持っていることを認めたものの、近年の急激な普及、特にトランプ氏がドルの国際的な影響力を拡大する手段としてステーブルコインを支持するようになって以降の拡大に対して、多くの中銀関係者は警戒を強めている。
不安視されているのは、ステーブルコインの発行企業が十分な準備通貨を保有していないと投資家に疑われた場合、「取り付け騒ぎ」が起きる可能性があることで、2022年にテラUSDが崩壊した際にはこうした懸念が現実になった。
イングランド銀行(英中銀)のベイリー総裁は、ステーブルコインが正当な交換手段と見なされるためには「その名目価値を保持できることを証明しなければならない」と発言。ラガルド総裁はステーブルコインは「通貨の民営化」に等しいと踏み込み、通貨供給のコントロールを中銀の手から奪い、金融政策の遂行能力を損なうと警鐘を鳴らした。
韓国中銀の李総裁も、李在明(イ・ジェミョン)大統領が公約に掲げたウォン建てステーブルコインはドルへの交換を容易にしてウォンを脅かしかねないと、具体的な懸念を示した。
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