- 2025/07/04 掲載
インタビュー:減税や円金利動向を注視、日本の格付け判断で=ムーディーズのド・グズマン氏
[東京 4日 ロイター] - 米格付け大手ムーディーズは、今月20日投開票の日本の参院選を控えて、減税議論の行方や円金利動向を注視する考えを示した。同社では2014年12月以降、日本の格付けを21段階のうち上から5番目の「A1」、見通しを「安定的」で維持している。
同社のソブリン・リスク・グループで日本のソブリン格付けを担当するシニア・バイスプレジデント、クリスチャン・ド・グズマン氏(シンガポール在勤)がロイターの取材に答えた。
選挙戦では消費税減税や現金給付の主張が相次ぐ中、日本国債に格下げリスクはないのか聞いた。主なやり取りは以下の通り。
──かつて最上位のトリプルAだった日本のソブリン格付けだが、足元ではA1、見通しは安定的。参院選を控えて消費減税や防衛費増額を巡る議論も活発だが、格下げリスクは。
「当社では格付け変更の判断に際し、短期的な経済や財政の状況ではなく、ヒストリカルな基調や経済・財政状況の中長期的な見通しを重視する。世界の経済およびソブリン信用力に関しては、足元では地政学的な動向やトランプ米政権の政策による影響から悪化傾向にあるが、日本の場合は見通し安定的としている通り、現時点ではリスクが均衡している」
「中国の景気減速は日本経済にとって逆風だが、日本経済は底堅さを維持している。名目国内総生産(GDP)は上昇基調にあり、当社が財政状況の判断に使うGDP比での財政赤字や債務残高も改善傾向だ。賃金上昇、また政府歳入についてもポジティブなモメンタムがある。これらがネガティブな側面を打ち消す形でバランスがとれ、見通しは安定的というわけだ」
「先日の北大西洋条約機構(NATO)首脳会議では、欧州の加盟各国が防衛費増額にコミットした。世界的なリスク環境において地政学リスクが上位を占める状況で、防衛費に上方圧力がかかる状況は世界的な現象で、日本だけではないと認識している」
「防衛費をいくらに増やすとコミットしたり発表したりしただけで、当社がソブリン格付けを見直すことにはならない。増大した防衛費をどのように、どれくらい歳入(税収)面の措置で埋め合わせられるか、その結果財政赤字はどうなるかを計算しての判断となる」
──では逆に、どういうことがあれば日本のソブリン格下げや見通し変更に動くのか。
「日本には大規模で多様な経済、伸びは緩慢だが高水準の国民所得がある。非常に高水準の政府債務があるとはいえ、その債務は国内の富、国内の資本市場によって日本円で賄うことが可能だ。また国内金利が非常に低いため、政府の債務負担は大きい一方、日本の『債務負担能力』は高く、バランスがとれている。この債務負担能力というのは政府歳入に対する利払い費の比率のことだが、われわれの判断において重要なポイントだ」
「先述の通り、日本政府の歳入に関してはポジティブな基調がみられるが、我々が格下げ方向で見直す可能性があるとすれば、この債務負担能力が深刻に損なわれるケースだろう。政府歳入に占める利払い費が急上昇するといった場合が考えられる」
「1つのシナリオは政府歳入に何らかのショックが起きるケースだ。例えば今月20日投開票の参院選に際して減税圧力が高まることがあれば、それは債務負担能力を損ねることになりかねず、格付けにとってネガティブだろう。もちろん、これは減税の規模や、減税が一時的か恒久的かということにもよる。このため、日本の参院選について大いに注視している」
「もう1つのシナリオとして、日本の債務負担能力を支える低金利という条件が損なわれるケースも考えられる。5月に30年金利が急上昇したことがあったが、あれは日本だけでなく米国の金利などとも連動した動きで、しかもロングエンドに限った話だった。そうではなく、イールドカーブ全体で円金利が想像を超える幅で急上昇するようなケースだ。そうなれば、日本が抱える巨大債務の中長期的な返済能力に疑念が生じかねず、問題となる」
「格下げを行う場合、先に見通しを変更することでわれわれの懸念を市場に伝えることもよくあるが、これはケースバイケース。例えばロシアのウクライナ侵攻に際してはそうしたプロセスはとっておらず、必要であれば見通しの変更を経ることなく、格下げに動く可能性がある」
*インタビューはオンラインで1日に実施しました。
(植竹知子 編集:橋本浩)
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