- 2025/07/08 掲載
マクロスコープ:日米交渉は延長戦、GDP0.8%押し下げ 経済対策規模に影響
[東京 8日 ロイター] - 米関税の実質的な交渉延長を受け、日本の金融市場は最悪のシナリオが避けられたとして株価が上昇するなどいったんの落ち着きを見せている。石破茂首相は引き続き協議を通じて合意点を探る考えだが、交渉が長期戦となれば、今後、日本経済や企業業績が目に見えて悪化しかねず、財政出動への圧力が強まることも予想される。
<GDP成長率0.7ー0.8%ポイント押し下げ>
石破首相は「関税よりも投資」と訴え、日本が米国にとって最大の投資国で雇用創出に貢献してきたことを強調してきたが、トランプ米大統領は貿易赤字を問題視しており、訴求点がかみ合っていない。
このままいけば、すでに課されている自動車分野への25%、鉄鋼・アルミへの50%に加え、全ての輸出品に対する関税が10%から25%に跳ね上がる。
民間エコノミストからは、日本の国内総生産(GDP)成長率の押し下げ影響に関し、2025年(あるいは短期的)に0.7%ポイント(バークレイズ証券)─0.8%ポイント(大和総研、三菱総研)との試算が出ている。
<国内外で膨らむ関税コスト>
米国による関税で日本企業の輸出関連コストはすでに大きく膨らんでいるが、相互関税の引き上げでその影響はさらに広がる。
みずほ証券の小林俊介チーフエコノミストは、現状の措置によって日本企業が直面している関税コストが国内外合計で年間5.2兆円に上ると見積もる。仮に日本への相互関税が25%に引き上げられると日本からの輸出だけで1.8兆円の追加負担が発生。さらに海外現地法人から米国への輸出も、各国への相互関税の税率引き上げで影響が出てくるのは必至だという。
SMBC日興証券の丸山義正チーフマーケットエコノミストは、参院選が時間の面でも政策オプションの面でも石破政権の自由度を縛る可能性が高いとし、交渉が妥結に至らず、相互関税が適用されるリスクは高まっている、とレポートで指摘している。
<企業の命運握る「価格転嫁力」>
政府は、関税による経済影響を「直接的な輸出減少」と「世界経済の減速を通じた間接的影響」に整理している。なかでも、対米輸出の落ち込みの度合いは、各企業が米国市場でどの程度価格を引き上げられるか、そして米国の消費者がその価格を受け入れるかに左右されるという。
内閣府が公表している4月の月例経済報告向け資料によると、日本からの財の対米輸出額は21.3兆円。内訳は、資本財(建設・鉱山機械・半導体製造装置等)が38.3%、自動車部品・トラック等と工業原材料(化学製品、鉄鋼等)がそれぞれ10.5%。一方、個人消費に関連する乗用車が26.9%、消費財(医薬品、ボート類、バイク類、ゲーム等)が10.0%、飲食料品が1.0%となっている。
関税の影響は業種によって濃淡があるものの、総じて日本企業には環境変化への柔軟な対応が求められる。
消費関連のうち、乗用車は春先に駆け込みで積み増された在庫が減少傾向にある。トヨタ、スバル、三菱自動車は米国市場で値上げに踏み切り、マツダも検討中とされる。政府関係者は「建機や半導体装置のように競争力のある分野も価格転嫁できる。一方、その他消費財は現地生産を拡大できなければ厳しいのではないか」と語る。
石破首相は8日朝、官邸で開いた米国の関税措置に関する総合対策本部で、米国による一連の関税措置が国内産業や雇用に与える影響を緩和することに万全を期すよう、関係閣僚に指示した。政府は現在、国内対策として「緊急対応パッケージ」を講じているが、状況によって追加策が必要となる可能性も出ている。
三菱UFJモルガン・スタンレー証券は「日米の関税交渉が長引いたり、世界経済の減速感が強まる場合は、経済対策の規模は大きくなる」と予想している。
(杉山健太郎 編集:橋本浩)
最新ニュースのおすすめコンテンツ
PR
PR
PR