- 2025/07/28 掲載
アングル:中国ECで「即時配送」競争が激化、当局の批判にも屈せず
[上海/北京 25日 ロイター] - 中国の大手電子商取引(EC)プラットフォームが、1時間以内、最短30分で商品を届ける「即時配送」サービスで価格競争を繰り広げている。異例なことに政府の批判にも屈する様子を見せず、即時配送は自社の命運を託すほど重要なビジネスと位置付けていることが分かる。
米中貿易摩擦や米国の対中技術輸出規制によって既に打撃を被っている中国経済において、即時配送の価格競争はデフレ圧力を根付かせかねないとして、当局は規制強化も辞さない構えだ。
しかしアリババ、京東集団(JDドットコム)、美団の3大ECはここ数カ月で計約2000億元(約280億ドル)を、無料特典やクーポンなど即時販売の特典に投じることを決めた。
関係筋によると、独占禁止当局の国家市場監督管理総局(SAMR)はサービスの過激化を見かね、先週3社に2度目の呼び出しをかけて「政府の政策に沿った合理的な競争」を求めた。
テック・バズ・チャイナのテクノロジーアナリスト、エド・サンダー氏は「正に今起こっている闘いだが、実際には5年、10年先の展望と大いに関連している。(プラットフォーム企業は)この闘いが社の存亡を決しかねないと考えている」と述べた。
人工知能(AI)と自動倉庫の採用によって即時配送の収益性は今後ますます高まり、従来のECを食い荒らすほどになると同氏は見ている。
競争の数例を挙げると、アリババは1時間以内に配達する朝食の料金をカバーするクーポンを配布し、美団はお茶を無料で提供、京東集団傘下のJDテイクアウェイは11元以上の注文で10元のクーポンを付与している。
アリババ、京東、美団はコメント要請に応じなかった。
<有害な競争>
中国当局は通常、健全で合理的な市場の発展を害すると判断した慣行に対し、継続的に強硬姿勢を採る。企業がそれに抗うのは珍しい。
国営の新華社通信は23日の社説で、即時配送は「無料の買い物」だとして、その悪影響を明確に指摘。「表面上はプラットフォーム企業が『価格戦争』で即時配送市場を争っている構図だが、その本質は特典を付けて『バブル市場』を生み出すことだ」とし、「率直に言って勝者はいない」と切り込んだ。
中国経済は今年上半期に5.3%の成長を遂げたが、小売売上高の伸びは5月の6.4%から6月には4.8%に減速しており、先行きが危ぶまれる。
またANZのエコノミストらの推計では、中国の消費者物価指数は今年0.1%、生産者物価指数は3%、それぞれ低下する見通しだ。予想通りなら、2009年以来初めて年間でデフレとなる。
中欧国際工商学院の経済学教授、バラ・ラマサミー氏は「価格戦争は決して企業の利益にはならない。消費者は当然利益を得るが、マクロ経済の観点からは価格期待が低下し続ける」とし、「中国で起きている競争のレベルは現実離れしており、時には有害ですらある。公共の利益のために政府の介入が不可欠だ」と語った。
<即時配送ビジネスの魅力>
関係筋によると、規制当局は25日の会議で問題点の1つとして、無料で付いてくる飲食物の食品ロスを挙げた。
テック・バズ・チャイナのサンダー氏は「規制当局は、あらゆる点から不満を抱いている。間違いなく不満なのは、多くのハイテク企業が、長期的な効果ゼロの消費者向けの割引を乱発して資金を浪費していることだ」と語る。
しかし新型コロナ禍以来、個人消費低迷による成長鈍化に苦しむEC企業にとって、即時配送ビジネスの魅力は無視できない。
中国国際貿易経済合作研究院のデータによると、即時配送は従来のECに比べ約2.5倍のスピードで成長しており、売上高は2030年までに2兆元を超える見通しだ。
消費者は低価格を享受できるかもしれないが、ECの出店社はソーシャルメディア上で、価格競争によって利ざやがほぼゼロになったと不満を漏らしている。レストラン経営者は収益性の高い対面注文が減ったと嘆く。
外食データ調査機関NCBDの創設者、ワン・ホンドン氏は「規制の観点から、当局は一般的には競争を歓迎しており、最も反対しているのは独占だ」と指摘。「従って配送戦争が完全に停止する可能性は低いが、レストラン実店舗での飲食への影響など、課題の一部には対処しそうだ」との見方を示した。
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