- 2025/08/13 掲載
アングル:トランプ氏批判の雇用統計、利下げ根拠になる皮肉な構図
[ワシントン 12日 ロイター] - トランプ米大統領は7月の雇用統計が気に入らず、「改ざん」されたと主張して労働省・労働統計局(BLS)の局長を解任した。しかし皮肉なことに、連邦準備理事会(FRB)幹部らは7月統計を景気減速の重要な証拠だと受け止め、この統計を根拠にトランプ氏が望む利下げに動く可能性がある。
トランプ氏が任命したボウマンFRB副議長は9日の講演で「最新の雇用統計により、労働市場の脆弱(ぜいじゃく)さと活力減退の複数の兆候が確認された」と述べ、「行動(利下げ)が遅れれば労働市場環境が悪化し、経済成長が一段と減速するリスクがある」と続けた。
労働市場が悪化する兆候は、FRBに利下げをさせるというトランプ氏の望みの達成につながる可能性がある一方、自身の減税や移民政策、通商政策が成長を押し上げている、という主張には逆行するものだ。
7月の連邦公開市場委員会(FOMC)で、金利据え置きに反対票を投じて即時利下げを主張したのはボウマン氏と、やはりトランプ氏が指名したウォラー理事の2人だけだった。しかし金融市場は現在、9月16―17日の次回FOMCで85%以上の確率で利下げが決まることを織り込んでいる。
BLSが12日発表した7月の消費者物価指数(CPI)は前年同月比2.7%の上昇と、伸びは6月から横ばいだった。ガソリンと食品の価格低下が上昇を抑えた。しかし食品とエネルギーを除くコア指数は前年同月比3.1%上昇と、6月の2.9%上昇から加速。コアCPIを押し上げたのは、医療や航空旅行を含むサービス価格と、関税に関係している可能性がある家具や中古車の価格だった。
CPIの発表後、金融市場では9月と12月のFOMCで利下げが決まるとの見方が維持された。
トランプ氏は11日、新たなBLS局長に保守系シンクタンク「ヘリテージ財団」のチーフエコノミスト、E・J・アントニー氏を指名した。経済・投資界はこの人事について、トランプ氏によるパウエルFRB議長後任選びと同じくらい強い関心を持って注視するだろう。金利、株価、政治の命運を左右しかねないデータの信頼性にかかわってくるからだ。
FRB幹部らは最近、BLSの統計を補完し、クロスチェックする方法に言及している。
セントルイス地区連銀のムサレム総裁は先週、金融政策担当者が政府機関データと併せて「政府の統計機関が集計するデータ以外の数多くのデータにも注目する。さまざまなデータを突き合わせ、どれも同じストーリーを語っていることを確認する」と述べた。
「われわれは自らの職務を続けていけると私は確信している。(中略)われわれは、全米の企業および家計との直接的なやり取りを通じて経済とつながっている。データに加え、印象に基づく強い経済観も有している」という。
<クロスチェック>
BLSが今後も不安定な状況を続けたとしても、FRBが経済動向を把握するためのデータには事欠かない。
ここ数年で民間データが劇的に増えたほか、人材採用サイトやスマートフォンの位置情報、オンライン価格などを通じ、客足や物価、求人、採用をほぼリアルタイムで測定する手法も充実してきた。
米供給管理協会(ISM)などの団体が物価について重要な洞察を提供している上、ミシガン大、全米独立企業連盟(NFIB)、コンファレンスボードなどのアンケートから、インフレ期待、採用、全般的な経済見通しが読み取れる。
また行政記録は実際の出来事の集計を示すため、重要なバックアップデータとなる。失業保険の申請件数は、各州が毎週報告したものを労働省が集計して発表する。一方、BLS「四半期雇用・賃金調査」のような企業調査データは遅延があるものの、月次雇用者増加数の推計値の最終的な検証材料となる。
FRBも独自のデータ収集を行っており、これには最高財務責任者(CFO)など企業経営者へのアンケートや、地区連銀経済報告(ベージュブック)の基礎となる非公式だが広範な聞き取り調査が含まれる。
ミネアポリス地区連銀のカシュカリ総裁は先週のCNBCインタビューで、BLSのような機関がデータを操作しようとしても失敗に終わると指摘した。
「経済の現実を偽装することはできない。(中略)だれかの政治的利益のために数字が偽装されていると想像してみよう。人々は自分たちが感じるものを目にする。企業は採用するかしないかであり、それによって国民は経済状態を目にする。インフレは現実ではないと国民を説得しても効果はない。雇用の数字は実際より良いのだと納得させるのは無理だろう」と語った。
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