- 2025/09/30 掲載
アングル:トランプ氏に翻弄される自動車業界、「工場続々進出」とは異なる実態
[29日 ロイター] - トランプ米大統領(共和党)はホワイトハウスで9月に開かれたイベントで「現在、非常に多くの自動車工場が建設中、あるいは設計中だ。それらは中国やメキシコからやって来る」と吹聴した。その数日後には米国での自動車生産が長年にわたって失われてきたと嘆き、「自動車工場が戻ってくる」と宣言した。
しかしながら、米国に新しい自動車工場が建設ラッシュを迎えているという証拠はほとんどない。自動車メーカーは代わりに、第2次トランプ政権の2本柱である輸入品への関税引き上げと電気自動車(EV)への敵対的な政策に適応するために既存工場で戦略的な動きを見せている。
トランプ関税を回避するため、一部自動車メーカーは米国内の工場の遊休スペースを改造し、これまでは輸入していて、このほど関税強化の対象となっていた車両の組み立てを開始している。
例えば日産自動車は、米南部テネシー州とミシシッピ州の工場でスポーツタイプ多目的車(SUV)「ローグ」などの生産を増やし、日本からの輸入台数を減らす計画を発表した。
調査会社オートフォーキャスト・ソリューションズのサム・フィオラニ副社長は「稼働率が低い工場が、従来輸入していた製品で埋まりつつある状況だ。新工場の建設ブームは起きていない」と指摘した。
<EVからガソリン車へ>
一方、多くの自動車メーカーは2020年代前半に掲げたEV生産のための設備投資を後退させ、ガソリンを燃料とする内燃機関車の生産に傾斜している。各社がこの数カ月間で宣伝している設備投資の多くは、バイデン前政権(民主党)時代に誇らしげに発表したEV事業の縮小に他ならない。
例えば米ゼネラル・モーターズ(GM)は今年6月、中西部ミシガン州デトロイトの郊外の工場を改修し、ガソリン駆動のピックアップトラックと高級車ブランド「キャデラック」のSUV「エスカレード」を生産すると発表した。すなわち、この工場をEVピックアップトラックの生産拠点とするために数十億ドル規模を投資すると22年に発表した計画を一部撤回することにほかならない。
コンサルティング会社アリックスパートナーズによると、10年代後半に始まった自動車業界のEVへの大規模な賭けは、バイデン前政権下で工場への設備投資が急増した。GM、米フォード・モーター、「クライスラー」ブランドを抱える欧州ステランティスのデトロイトの伝統的な3社、米EV専業メーカーのテスラ、リビアン、ルーシッド・グループを調査したところ、これらの企業は17年から第1次トランプ政権末期の20年にかけて年間平均約210億ドルを投じていた。バイデン前政権下の21―24年には年間平均約380億ドルに増加し、うち大部分がEVとバッテリーの生産関連だったという
トランプ氏が24年大統領選に勝利する前から、自動車メーカーは予想を下回る需要を理由にEV事業の計画を縮小していた。自動車業界幹部らは、トランプ政権の政策がEVへの関心をさらに冷やすと予想している。
<トランプ政権は自動車輸出に期待>
ホワイトハウスのクシュ・デサイ報道官は、トランプ政権の貿易・エネルギー政策が既に米国の自動車産業への歴史的投資を促進し、規制によるコストを数十億ドル削減したと主張。「これらの政策と、トランプ氏が欧州連合(EU)や日本などと結んだ前例のない貿易協定が発効するにつれ、間もなくデトロイトの組み立てラインで生産された自動車が東京、ドイツ・フランクフルト、パリのショールームに並ぶだろう」と期待を込めた。
ホワイトハウスは、米国の自動車・エンジン・部品の輸入額は2025年第1・四半期の後に約10%減少し、4214億ドルとなったと表明している。
米連邦準備理事会(FRB)のデータによると、今年に入ってからの米国での自動車生産台数は約4%増加したものの、過去10年間の平均を下回っている。
カナダ国際自動車製造者協会(GAC)のデビッド・アダムズ会長は「カナダから米国へ軒並み生産拠点を移すという主張は、現地の実情とは合致しない」と話し、自動車メーカーの工場がカナダから米国へ流出しているとしたトランプ氏の主張に反論。カナダの自動車工場の雇用は安定していると強調した。
アダムズ氏は、強硬なトランプ関税が北米での自動車生産の構造を最終的に変える可能性はあるとしながらも「現時点ではその段階には至っていない」と話した。
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