• 2025/10/03 掲載

焦点:シリコンバレーから兵器開発へ、「戦争」に軸足移す新世代起業家

ロイター

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David Jeans

[ニューヨーク 1日 ロイター] - ニューヨーク、マンハッタンのイーストビレッジ。自ら出資したウクライナを舞台にしたドキュメンタリー映画のプレミア試写会に現れたハイテク起業家のスティーブン・シモーニ氏(39)は、集まった人々の注目を一身に集めていた。

「俺は今、ウォーロード(武将)だ、ビッチ!」

4000ドル(約59万円)する高級ブランド、セリーヌのジャージーをはだけて裸の胸と銀のチェーンをさらしたシモーニ氏は、自らの最新ベンチャー事業について記者にこう冗談を言ってみせた。

シモーニ氏は2022年、立ち上げた飲食店向け決済サービス会社を1億2500万ドルで売却し、典型的なシリコンバレーの成功者となった。

しかし今は、別のスタートアップに共同創業者として参画している。アレン・コントロール・システムズ社は、ドローン(無人機)を空から撃ち落とすために設計された人工知能(AI)搭載の自律型マシンガン「ブルフロッグ」を製造している。

「未来は基本的にスカイネットだ」とシモーニ氏は言う。米映画「ターミネーター」シリーズに登場する、自我を獲得して人類に反旗を翻す架空のAIシステムのことだ。「私はそんな製品を政府に供給したい」

「スター・ウォーズ」オタクで、かつて「ゲーム・オブ・スローンズ」のカードゲームの全米チャンピオンになったこともあるシモーニ氏が、意気軒高な防衛産業の請負業者になるとは、ほんの数年前までならばかげた話に思えただろう。

しかし今では、トランプ政権でAI担当高官を務めるデービッド・サックス氏が共同設立した会社が主導するラウンドで調達したものを含め4000万ドルの資金を入手したほか、米陸軍特殊作戦部隊とプロトタイプ契約を結ぶなど、順調に前進している。

ウクライナや中東での戦争や中国との緊張の高まりで、米国が未来の戦争に備える必要性が浮き彫りになっている。シモーニ氏は、そんな中で軍事技術へと軸足を移しつつあるシリコンバレーの新しい世代の起業家の一人だ。ドローン開発会社アンドゥリルやデータ解析企業パランティア・テクノロジーズの後を追い、かつて消費者向けアプリを販売していたテック系起業家たちがいまや群ドローンやスパイ衛星、自律型ボートなど殺傷力のある技術の開発を進め、ベンチャーキャピタルや国防総省からも期待を集めている。

海軍退役軍人のシモーニ氏は、映画「ウォー・ドッグス」でブラッドリー・クーパーが演じた武器商人にインスパイアされた 「ウォーロード」というキャラクターとして振る舞うのは、彼の会社に注目を集めるための方法のひとつだと話した。

「戦争は嫌いだが、戦争はどちらにせよいずれ起こる。だから、いつかは誰かがこの製品を作ることになる、という感じだ」

<将軍たちは私が大好き>

最近のある夜、首都ワシントンでロイター記者と夕食を取っていたシモーニ氏は、大統領の長男ドナルド・トランプ・ジュニア氏が設立したプライベートクラブ「エグゼクティブ・ブランチ」のスタッフからメールを受け取った。このクラブは、トランプ政権に関係する人々とつながりたい防衛産業の業者にとっては絶好の場所であり、シモーニ氏は最高50万ドルの入会金を割り引いてもらえないか交渉していた。

「エグゼクティブ・ブランチにもっと時間を割くべきだった」と彼はトランプ政権を指して言った。「防衛技術で重要なのは、ホワイトハウスと議会に売り込むことだ。国防総省よりも先にね」

その後、シモーニ氏は割引が受けられないことを知り、入会を断念した。しかし、同氏の派手な動きは、彼の会社に注目を集めるのに役立っている。同氏はドローンの専門家としてFOXニュースに出演し、軍高官とのインタビューを特集したポッドキャストを立ち上げ、最近ではベンチャー企業のフォーラム・ベンチャーズにパートナーとして加わり、他の防衛技術企業に投資している。

サックス氏のベンチャー企業の支援を受けたことで、トランプ大統領がスピーチを行ったAIサミットに招待されるなど、門戸も開かれた。

シモーニ氏は、テキサス州オースティンの会社のペントハウスで深夜パーティーを開き、新興企業や政府関係者を招いている。今年初めには、共和党のジョン・カーター下院議員のための資金調達パーティーを主催し、下院軍事委員会のマイク・ロジャース委員長が出席した。またある時は、会議の後で軍関係者とカラオケに出かけたこともあったという。「将軍たちは私のことが大好きだ」と、シモーニ氏は言った。

6月には、陸軍の近代化と最先端技術の獲得を担当する米陸軍将来コマンドのジェームズ・レイニー司令官がシモーニ氏の週刊ポッドキャストに共演し、シリコンバレーと協力する国防総省の取り組みについて語った。

レイニー司令官は、「要は、今ある米国の偉大なハイテク企業に出向いて調達し、それを我々の戦闘員の手に届けられるよう、財政的に機敏になるということだ」と語った。

米陸軍は声明で、「ブルフロッグが既存の陸軍プラットフォームに統合される可能性を評価する」ために、会計年度末までにアレン・コントロール・システムズと 「契約を結ぶ過程にある」と述べた。

<ドローンを撃墜>

アレン・コントロール・システムズが取り組んでいるのは、小型かつ安価で、妨害電波で防御できないドローンを攻撃が始まる前に撃ち落とすという、ウクライナ戦争で顕在化した戦場の課題を解決することだ。

現在、兵士たちは銃でドローンを撃っている。一方で、様々な新興企業がレーザー光線からマイクロ波まで新たな解決策を提供し始めている。ヘグセス国防長官は8月、この問題に対処するため、対ドローンタスクフォースを立ち上げると発表。「敵対的なドローンによる脅威が日に日に増していることは間違いない」と述べた。

同社はAIを搭載したブルフロッグを1台約35万ドルで販売。自律走行車や無人船に搭載したり、米国とメキシコの国境や海外の軍事基地などの境界線を確保するために使用できる可能性がある。

ターミネーターに登場しそうなこの装置は、1秒以内に400度旋回することができる。実地試験中の試作機のひとつは「エミネム」、もうひとつはテレビ画家の故ボブ・ロスにちなんで「ボブ」と名付けられている。カバーの下には、シモーニ氏と共同創業者ルーク・アレン氏の姿がプリントされたカスタム回路基板がある。「ロシアや中国がいずれこのうちのひとつを回収したら、私たちの顔を見ることになる。彼らを笑ってやっているんだ」と、シモーニ氏は話した。

先月オースティンの牧場で行われた米軍や情報機関、投資家向けのデモでは、ピックアップトラックの荷台に搭載されたブルフロッグのM240機関銃が上空のドローンに向けて弾丸を浴びせた。約半ダースを撃ち込んだところで、1機のドローンが炎を上げて空から落下した。

その後、機関銃が詰まった。ドローンは機関銃に向かって接近し、再び無傷で飛び去った。シモーニ氏は、年内には実戦向けに間に合うとして懸念を一蹴した。

<シリコンバレーからは逆風も>

シモーニ氏はペンシルベニア州の軍人の家庭に育ち、08年に原子炉に携わるエンジニアとして海軍に入隊した。そこで、同じエンジニアで後に共同設立者となるアレン氏と出会った。退役後、2人はシリコンバレーに移り住み、何度か起業で失敗した後、19年にQRコード決済サービス会社Bbotを立ち上げた。

同社は当初、レストランで飲み物を配膳するロボットシステムの販売に苦戦したが、ソフトウエアに軸足を移して成功を収めた。その後すぐに米料理宅配大手ドアダッシュに買収され、創業者の2人はまとまった金額を手にした。

「プーチン(ロシア大統領)が2度目のウクライナ侵攻に踏み切ったのは、私たちがBbotを売った数日後だった」と、アレン氏。「エンジニアとしての選択肢は、善人を助けるか、悪人を助けるか。何もしないのも選択肢だった」

ドアダッシュを辞めたアレン氏は、ウクライナでドローン攻撃の脅威が高まっているのを見て、シモーニ氏からのシード投資を受けてブルフロッグの開発に取り組み始めた。説得を受けて24年初めにアレン・コントロール・システムズの最高経営責任者(CEO)に就任したシモーニ氏は、「どんな会社にもフロントマンが必要だ」と話す。

それ以来、シモーニ氏がシリコンバレーのビジネスの表舞台に立ってきた。シモーニ氏は、アレン氏がときどき自分を、詐欺罪で有罪判決を受けた血液検査会社セラノス創業者のエリザベス・ホームズ氏と比較すると言う。

「確かに、ホームズも私も優秀なマーケティング担当者で、注目を集めるのが得意だ。しかし、(アレンは)実際に本物の製品を作っている。彼女のところでは製品は作っていなかった」

シリコンバレーが軍に革命的な技術刷新をもたらすという触れ込みに慎重な見方を崩さない専門家もいる。サンノゼ州立大学の人類学者で、軍事化を研究しているロベルト・ゴンザレス氏は、「防衛や兵器システムに関しては、失敗は大惨事になりかねない」と指摘する。

ハイテク業界には、防衛産業の仕事という考え自体を嫌気する人もいる。

シモーニ氏は8月、あるソフトウエア・エンジニアに入社を打診するメールを送った。このエンジニアは、メールのスクリーンショットをXに投稿。「(売却の対価として)1億2500万ドルを手にして生涯安泰となったところで、AI搭載銃を作ることが使命だという考えに至ることを想像してみて(泣き顔の絵文字)」と書き込んだ。

シモーニ氏は、この投稿のスクリーンショットをプリントしたTシャツを着て、大笑いしている自分の写真を投稿して反論した。「想像するまでもない」

<上場も視野に>

シモーニ氏は今年初め、アレン・コントロール・システムズのCEOを退任し、社長に就任した。同社の3人目の共同設立者でマイク・ウィオール最高執行責任者(COO)が、代わってCEOになった。

同じくレストラン・テック業界の出身で、以前に起業した会社を5000万ドルで売却したウィオール氏は、「私の方がより多くの企業セールスの経験があり、スティーブよりも話がまとまりやすかった」と言う。

しかし、シモーニ氏は依然として会社のフロントマンである。

同社は機関銃にとどまらず、ドローンのセンサーやビデオにダメージを与えることができるレーザー・ダズラーの試作機のテストを開始した。シモーニ氏は、「スカージ」と呼ばれるブルフロッグの空中版の開発にも取り組んでいると話した。

同氏は、個人投資家がAI制御の銃器製造会社に関心を持つと考えており、来年には特別買収目的会社(SPAC)を通じて会社を上場させたいと考えている。「FOXニュースに出ると、受信トレイは何千もの問い合わせでいっぱいになるんだ。ティッカー(銘柄コード)は何ですか、とね」

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