- 2026/02/20 掲載
マクロスコープ:「国益スタートアップ」に脚光 SaaS逆風、高市自民圧勝で
[東京 20日 ロイター] - 国内のスタートアップ業界に流入する資金が停滞している。2025年の資金調達額の合計は前年比横ばいの8800億円前後だった模様だ。金利上昇が投資家の重荷になっているほか、SaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)関連企業に逆風が吹いており、ピークの22年を約1割下回る。東証改革の影響でIPO(新規株式公開)の減少が予測される中、高市早苗政権下で成長が見込みやすい「経済安全保障」関連のスタートアップに注目が集まっている。
スタートアップ情報サイトのスピーダによると、昨年の資金調達(借入を除く)の速報値は計7613億円だった。契約締結から遅れて公表する会社も多いことから、最終的な着地点は24年と同水準になると予想している。一方で、資金調達した会社数は前年(3786社)を下回る可能性が高いという。政府は22年に「スタートアップ育成5か年計画」を公表し、27年度に調達額を10兆円規模に増やす目標を掲げたが、現状は遠く及ばない。
資金供給が停滞しているのは、東京証券取引所が昨年、グロース市場の上場維持基準の厳格化を決めた影響が大きい。30年以降は、IPOから5年過ぎて株式時価総額が100億円を下回る企業は上場廃止となるため、事業規模の小さい「小粒上場」は現実的に難しくなる。IPO件数が減少すれば、ベンチャーキャピタル(VC)にとって資金を回収する機会が減ることから、投資先の成長性をより慎重に見極めるようになった。
足元の金利上昇で将来の利益予想を現在価値に引き直す際の割引率が高まり、スタートアップ各社の企業価値が目減りしていることも、リスクマネーが滞る要因となっている。
また、AI開発の新興企業オルツが不正会計で上場廃止になったため、ガバナンス(企業統治)面を中心に「スタートアップに対する見方が非常に厳しくなっている」(独立系VCアニマルスピリッツの朝倉祐介・代表パートナー)という。最近では、米アンソロピックが公開した新機能「Cowork(コワーク)」が世界中で話題を呼ぶなど、AIエージェントがソフトウエア企業に取って代わる、「SaaSの死」を巡る懸念も投資家の間で強く意識されている。
スピーダによると、25年のSaaS分野における国内資金調達額は1374億円(速報値)と22年と比べて半減した。
<政府系ファンド、経済安保を重視>
こうした中、高市政権下で成長が期待できる経済安保関連のスタートアップに注目が集まっている。自動運転技術を開発するチューリングは昨年秋、政府系ファンドのJICベンチャー・グロース・インベストメンツ(JIC VGI)などからエクイティ(株式発行)で約98億円を調達した。
自動運転技術は米中企業が大きくリードしているが、JIC VGIの投資担当者である岸村俊哉氏は「基幹産業の自動車において、コアとなる『知能』の部分を海外に依存することは、経済安全保障の観点からも望ましくない」と出資の理由を説明する。
昨年11月に三菱UFJフィナンシャル・グループなどから200億円を調達したと発表したのは、AIユニコーン(企業価値10億ドル以上の未上場企業)のサカナAIだ。手に入れた資金を活用して自国で運用する「ソブリン(主権)AI」の開発を進める方針で、伊藤錬最高執行責任者(COO)は「海外の企業に依存することなく、自前のAIを持てるようになればデジタル赤字を抑制できる」とメリットを強調する。
同社は防衛・インテリジェンスチームを立ち上げ、外国勢力による(偽情報などを用いて世論の分断を狙う)認知戦の対策にも乗り出した。政府機関に向けた分析ツールの提供を計画しているといい、伊藤氏と同じく外務省OBの幹部、石井順也氏はロイターの取材に対して「当社は日本発のAI企業として、国益を重要視している」と語った。
ロボット制御ソフト開発のムジンはNTTグループなどから約209億円を調達したが、同社の広報担当者は「地政学的リスクが高まる中、工場の自動化によって生産ノウハウや機密情報の(海外への)流出を防げる」と話した。例えば国際情勢の変化に伴って中国などから他の国に工場を移転する際も、産業用ロボを導入すれば作業員の育成にかかる負担を減らせる。
衆院選で自民党が圧勝し、高市内閣が長期政権になる可能性が出る中、自国への貢献を目指す「国益スタートアップ」の存在感は今後ますます高まりそうだ。
(小川悠介 編集:橋本浩)
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